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2021年4月15日木曜日

スプリットボードって正直どうよ? (2/2)

シュッッ…シュッッ…クライミングスキンが雪に擦れるリズミカルな音をさせながら、タカさんが 横に並んできた。

ブチョ、どうですか?スプリットボード?
うん、快適だよ…ちょっとキョロキョロする気もするけど(注1)
スノーシュー背負わなくていいのって、軽くて良さそうですね。
うん!なんか体が軽く感じるよ。

僕は高揚感と少しの不安を感じていた。スプリットボードを使うのは今回が2回目で、本格的なBCは今回が初めて。前回は草津シズカ山スキー場の跡地をハイクアップして、かってゲレンデだった斜面を滑っただけだしね。

今日は平標山へ登り、ヤカイ沢を滑走する計画だ。

Mt. Tairappyo, Yakaizawa area

この日のメンバーは、僕(スプリットボード)、タカさん(テレマークスキー)、ヨーイチ(ボード&スノーシュー)と、雪山宴会部ならではの乗り物博覧会(注2)。

Yohichi, snowboards with step-in binding & boots configuration. 

僕らは林道を途中までツボ足で歩き、雪のあるところで各々のハイクアップ装備をセットして登る。しばらくしたら、クライマーズライトの尾根に乗り上げる。そして、尾根伝いに山頂稜線に上り、平標山の山頂へと至るのだ。

Yohichi & Taka

rider: Taka

尾根の取り付きが急斜面になっていて、そこで僕の苦行が始まった。
ヨーイチは、スノーシューのトラクションを生かして斜面を直登していく。タカさんは斜登行とキックターンでジグを切って登っていく。スプリットの僕は…僕は…行き詰まった。

スプリットボードで直登できるのは、緩中斜面。ちょっと斜度が増したら、登行はものすごく微妙なバランスになってしまう。ペナペナのボードは、シールを斜面に効率よく押し付けてくれない。雪が硬かったり、凸凹していると、シールがグリップせずに後ろに下がってしまう。

それではと、斜登行に入ろうとするのだが、スプリットボードはエッジが食い込まない(注3)。そして、斜面に対して横向きになろうとすると、スプリットのテール側はダランと下がってしまって方向転換を妨げる。ここで僕は理解した、スキーで使える「斜登行」「階段登行」「開脚登行」「キックターン」がスプリットでは使えないことを。

で、僕は後ろ向きに5mくらいずり落ちてすっ転んだ。斜面上部では、とっくに登り終えたタカさんとヨーイチが心配そうにこちらを見ている。

このままではここを突破できないので、バックパックからクトー(スキーアイゼン)を出して、スプリットに取り付けた。これで、固いところを選んで行けば、登れるのでは無いか?

もう一度登り始めたのだが…スプリットが幅広すぎて、少しでも斜面に対して斜めになると、クトーの谷側の爪が斜面から浮いてしまって効かなくなる。そして、内側の爪だけでは、効きが不足して登行ができない。僕はまた行き詰まって、今度は10mくらい滑落した。その後はちょっと記憶が飛んでいるw

Taka at the peak of Mt. Tairappyo

どうやってこの急斜面を突破して、山頂稜線にでたのか、僕は覚えていない。多分、ツボ足で力づくで上がったのだろう。

山頂まで500mくらいのところで、僕は疲労困憊してしまった。

タカさん、ヨーイチ、俺はここで待ってるよ。
えっ?せっかくだから山頂で写真撮りましょうよ。
いや、もう平標はなんども登ってるからいいや。二人が戻って来るまでの間に、スプリットを合体させて滑る準備をしてるよ。

タカさんとヨーイチが山頂まで行って帰って来たとき、僕はスプリットボードを合体させることができずに悪戦苦闘していた。インターフェイスが氷結して、何かがどこかで邪魔をして合体ができない(注4)。

結局、何かのはずみで合体が完了して、無事に滑走して下山できたのだが…その後僕がスプリットをBCに持ち出すことは無かった。

タイトなツリー越しにヤカイ沢を見る

デメリットを整理してみる。
*エッジが効かない、スキーなら有効な登行技術が使えない
*思ったよりも軽量化できない。
スノーシューはいらなくなるけど、幅広のクライミングスキンはかさばるし、重い。クトーも必要だし、ナイフエッジみたいな場所があるなら、クランポンも必要。
*スノーシューやスキーとの行動に制約がある
スプリット+シールでは一緒のルートどりで行けない斜面がある。そこでバラけると、ガスが出たりして視界が悪化した場合、パーティがはぐれるリスクも生じる。それに、スキーのトレースは幅が狭すぎてスプリットは活用できない。特に斜面のトラバースで、スキーやスノーシューにはちょうどいい幅でもスプリットでは谷側の板を収めるスペースが不足する。こうなるとツボ足にせざるを得ない。

多分スプリットが向いている条件てのはこんな感じ。

◯穏やかな斜度で長いアプローチをスピーディーにハイクアップする。
◯スノーシューでは浮力が足りないくらいの深いラッセルがあるハイシーズンに入る。
◯パーティーが全員スプリットで、登るの大変なコンディションになったら降りるとか、コンセンサスができてる

北海道とか、東北とか、北米大陸みたいなスケール感には向いているんじゃないかな。


で、僕らが発見したスプリットボードのもっとも有効な使い道はこれ。

Yohichi & Taka

太めで長いスプリットボードは、カードゲームのテーブルに最適

クッソ、またDraw Four かよ!!!

スプリットボードの装備一式は結構なお値段。購入に踏み切る前に、僕は普通のリジッドボード+スノーシュー+クランポンで、BC経験を積むことをお勧めします。

では、皆様、ご安全に。

*最新のインターフェイスなら、欠点は改善されているかも。しかし、ボードの幅やブーツの剛性などに起因する、物理的な欠点は変わっていないと思われます*

注1 スプリットボードの滑り心地、フレックスとかトーションのバランスはノーマルボードと変わらなかった。その代わり、スキーポジションにすると、薄いベニヤ板を履いてるみたいにペランペランに柔らかい。足裏の前後20cmくらいしか、雪に密着していないように感じる。

注2 雪山宴会部は、登りも滑走もペースが同じくらいならば、乗り物に関係なく一緒に遊んでいた。これはわりと珍しかったようで、他のグループからも興味深く話しかけられた。さすがに、ソリとスノースクートのメンバーはいなかったけど…

注3 板は細ければ細いほどエッジは立てやすい。アイススケートみたいに細ければ、エッジング最強。ブーツはサイドが固ければ固いほど、エッジは立てやすい。そして、板のフレックスとトーションが固ければ、より強いエッジングができる。つまり、この要素が全部反対のスプリットは、エッジング能力ほぼ皆無…

注4 当時のバートンのスプリットインターフェイスは、氷結で分割と合体が著しく困難になることが知られていた。合体させられなければ帰ってこれないので、力づくで!ってやってレバーが折れる事案も頻発。対策部品がバートンからリリースされていた。僕はこの対策部品を手に入れて、なおかつ、凍結防止剤とシリコーンスプレーを吹きまくって、万全を期して行ったのだがダメだった。