自分の力だけではるか遠くに行くことができる。そんな魔法のような乗り物の自転車が大好きだった。
社会人になってからは、自転車からは遠ざかった。だが、10年ほど前、50歳を超えてから、グラベルロードを手に入れた。そこから知識と体のアップデートを進めて、200km以上のロングライドをするようになった。
グンマーから太平洋に行って帰ってくるとか、日本海に行ってくるとかは、何回かやっている。けれど、一つの旅で日本海と太平洋の海岸を延々と走るってのは未経験で、そこに魅力を感じた。
でも、一度は登りに来てみたいな、自転車で来れるんだもんな。
ここからルートは、尾花沢市を通って鍋越峠を超えて、東松島に向かう。尾花沢市はスイカで有名な街だったはず、実際にもう盛りは過ぎたはずなのに街道筋にはスイカの出店がそこここにあった。立ち寄りたい気持ちはあったのだけれど、全行程中で晴れるのはこの数時間と、最終日ゴール前の半日だけだから先へ進む。
雨が降り続く予報…
風がちょっと微妙になってきた。栃木に入るまで追い風なのは変わらないが、当初よりも弱い風。そして、栃木から群馬へ向かう微妙にアップダウンがあって削られるところが向かい風。
汗と雨と涙でグズグズになっていたウェアを脱ぎ、予備のウェアに着替える。輪行袋を出し、自転車をバラしてパッキング。
靴下を脱いでみて、足裏の痛みの原因が判明した…
さらに長い距離への憧れが高じて、3年前にブルベを始めた。そして、600kmという「車だってキツイよね?」という距離のヤツを何本か完走した。そうなると、気になってくるのが1,000kmという…「新幹線だってキツイよね?」という距離のブルベだ。
| スタート地点 |
この夏は、愛犬マメちゃんを見送ったりいろいろあり、身体ができていないので来年以降に挑戦しようと思っていた。けれど来年以降に挑戦するにしても、「まずは走ってみないと何もわからない」。ちょうど、地元発着で「フラット気味の1,000kmブルベ」があったのでエントリーして、DNF覚悟で挑戦してみることにした。
ルートはかいつまんで言うと、グンマーを出発して三国峠を越えてエチゴーに入る。そのままひたすら北上して山形に入り、そこから今度は太平洋に出て松島・仙台を通り南下。いわきで内陸に入って、幾つも小さな峠を越えて栃木を走りグンマーに戻る。
| ルート全体図 |
問題は…近づきつつある台風と秋雨前線。天気予報はほぼ100%雨!
まぁ、自然のあるがままを受け入れて走るのがブルベだと思っているし、おぉっ!今!オレなんかかっちょええこと言ったかも!! 長距離を走って峠を越えれば天気が一転するなんてことは普通にある。雨天走行も随分慣れたから、雨が降るなら降るで、準備を粛々とするのみ。細かいことだけど、チェーンルブ(オイル)は悪天候用を選択。
このハイパー・ウォーター・プルーフ・ルブを入れて、その上から普通のウェットタイプのルブを入れて拭き取ると、雨天でも300km程度は油膜切れせず、動きが軽い状態になる。そんな感じで雨対策を済ませていく。
| 雨天用スーパードロドロルブ |
スタート地点に集まったのは20人程度、半分くらいはDNSしたようだ。まぁ、普通の人ならそうするよね…この台風が来てる予報なら。
1,000kmブルベの制限時間は75時間。今回のブルベ、スタートは午後1時で3回のオーバーナイトがある。先が長いので、焦らず、軽いギアでクルクル回すことを心がけて三国峠へ。
浦佐で田中の角栄さんにご挨拶。
やがて雨が降り出し、雨具上下とシューズカバーを装着。長岡・新潟は駅の近くを通過するのだが、酔客が多い。連休スタートで浮かれている皆さんと、夜中に雨の中自転車乗っているボクらの対比といったらない。
| 田中の角栄さん@浦佐駅 |
雨なので写真が無い…結局ちょうどいい仮眠場所を見つけられず、日本海に出た時には朝を迎えていた。
雨は降ったり止んだりを繰り返していた。道の駅笹川流れのあたりで天気が回復してきたので、雨具を脱ぎつつ朝食とする。
この辺りは大型車が通行禁止のせいもあって、とても快適に走れた。
食欲はあまり無いけれど、食べられるものを選んだ朝食。
雨具を脱いで身軽になって先へ進む。
| 笹川流れ…自転車で来れるんだw |
| 向こうは佐渡ヶ島 |
| 道の駅で朝ごはん |
鶴岡で山中に入って東松島に向かうことになる。
名残惜しい気持ちで、目の前に現れた岩の写真を撮って日本海に別れを告げる。
宮城県にいる、親戚のおじさんが山好きで、以前どこの山が好きかという話になった。その時このおじさんが「栗駒山が一番」と言っていた。ボクはまだ登ったことの無い山だし、北アや南アとかも登ったことのあるおじさんが、真っ先に「栗駒山」が一番と言った理由はまだ知らない。
| 栗駒山 |
峠の少し手前でまた雨になり、日が暮れ、峠を越えると本降りの雨で夜のダウンヒル…
チェックポイントの東松島災害伝承館には、夜23時ごろについた。最後の数時間は睡魔と戦いながらの雨天走行で、大幅にペースダウンした。貯金はあまり増やせなかったが、仮眠を取る時間はあったのでベンチにぶっ倒れて寝た。
このままでは終われない、仙台から先はいわきまで追い風の予報。アラームで目覚めて雨具を完全装備して走り始める。雨は相変わらず降り続けていて、止む気配はまったくない。そして…期待の追い風があまり吹いていないw
松島、塩釜、多賀城と走り、仙台の郊外を抜けて名取まで3時間ほど進んだところで、足の裏の痛みが耐えられなくなった。雨が避けられるガード下で止まり、最新の天気予報をチェックする。
| ガード下でDNF検討 |
| この先も雨 |
| 雨がやんだら向かい風 |
どうやら、台風の動きが当初予報よりも遅いためのようだ。
追い風ブーストが期待できず、最後の向かい風を今のボクが耐えられるかと考えた時…
残念ながらDNFを選択することにした。とにかく足の裏が痛い。小石が前足部に入り込んだ時のように、ペダルを踏むと刺さるような痛みが走る。
名取駅近くのDNFポイントから仙台へ、ルートを設定して向かう。仙台駅には4時ごろ到着。切符の販売開始まで時間があるので、撤収準備をのんびりおこなう。
| 仙台駅 |
| 輪行セット |
| ふやけて変色した足裏 |
足の裏の皮がふやけて延びて、しわになり、シワがどんどん深くなって、凹状になっていた。そんでもって、この凹んでいる部分は皮が2枚重ねになっていて、Ωみたいな…皮膚の内部にパイプが埋め込まれたような感じになってしまっていて、踏み込むと痛みがでていたのだ。
足の裏の皮はとても分厚く、一回できたシワはなかなか消えない。それにこのシワが裂けてしまうと厄介で、皮膚科で縫ってもらう羽目になる(経験あり)。
今回のこの皮膚の深いシワも、1週間以上取れず痛みが引くまでの間、ボクは踵荷重の不格好な歩き方で過ごすことになった。
ということで、DNF判断は正解だったという結論にはなる。
DNF地点はだいたいスタートから550km程度。今のボクにとって、コンディションが悪ければ600km程度「しか」走れない、1,000kmはとてもムリということになる。
ただ、視点を変えれば、コンディションが悪くても600km「なら」走れるということにもなる。仮眠の時間を含むグロスで見ても、ほぼ600kmのブルベペースで走れてはいた。
「しか」なのか「なら」なのか…悲観か楽観か…
ともあれ、1,000kmブルベに挑戦してわかったことはいろいろある。ポジションマネジメントをうまくやれば、手や尻などのダメージもさほどではなく過ごせた。チューブレスワイドリム28cはとても快適だったし、穴あきショートサドルはデリケートゾーンのスレを低減してくれた。装備やウェアなどについても、実際に走ってみてわかったことが結構ある。
そうしたことを糧にして、来年…もう一度だけ挑戦してみたい…そんな気持ちになってきている。
