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2021年7月9日金曜日

暗い夜道 (その2)

お兄さん、血が…

気の良さそうな、歳かさの女性が心配そうに声をかけてきた。
俺のスネからはぽたり、ぽたりと血が出ていて、暗がりに折り畳みナイフが落ちていた。

写真と内容は関係ありません

ズボンを捲ってみると、向こう脛の皮膚が3cmほど切れて、中の腱が見えた。ちょうど、皮膚と骨の間に腱しかなく、血管が通っていないところに刃があたったようだ。女の人がハンカチを渡してくれて、包帯がわりにというので遠慮なく使わせてもらった。

さっきの歳かさの女性と、連れのもう少し若い女性がどうやら包みの持ち主のようだった。「警察と救急を呼びますか?」と聞かれたけど、大した怪我ではないので救急車は断った。

警察は呼ばないとまずいだろうなとは思ったけど、明日も仕事で早番なのだ。これから事情聴取で、深夜まで警察に留め置かれるのは正直イヤだった。

そんな気持ちを汲んだかのように、

お兄さんが包みを取り返してくれたので、もし、構わなければ、警察を入れないでこのまま帰れないだろうか?

さきほどの女性が言った。俺は、構わないと答えた。どこにでもいるような若い男を、この広い街で探し出すなんて無理なのだ。現行犯でなければ捕まえられない。それなのに、警察に根掘り葉掘り聞かれて朝帰りなんて、まっぴらゴメンだ。

女性は改めて礼を言い、包みの中から無造作に札を摘み出すと押し付けてきた。

あなたがいなければ、全部無くなっていた。せめてものお礼で取っておいてくれ。

そんなような事をいい、俺は一応ゴニョゴニョと断ったけど、ほかの男たちの、

いいから取っておけ!
ズボンも破れて、血がついて買い替えだしなぁ
お手柄だ!

そんな声に押されて…札を受け取りポケットにねじ込んだ。札は想像よりも分厚かった。

なんだかすごく疲れて、俺は家に帰り、キズを消毒し、バンドエイドを貼り…そう、バンドエイド3枚でふさがる程度のキズだった…汗を拭って寝た。

つづく