最初に、一般論から。
ボードの加工で重要なのは、各パーツのつなぎ目に隙間がないことです。雪上の低温下で、ボードの各パーツは縮みます。特に金属パーツは熱膨張率が高い(大きく伸縮する)ので、それを見越してエッジとソールのつなぎ目はきっちり塞がっていなければなりません。
ソール表面はフラットに仕上がって、用途や対象となるライダーに合わせたベベル角が入っている(注1)こと。ストラクチャーが適切に施されていることが基本です。
表面仕上げには、「やすり」や「刃物」(ファイル)、「砥石」などを使います。たまにですが、P-TEXが変質していてワックスの吸い込みが悪いソールを見かけます。シンタードソールのはずなのに、妙にワックスを弾いてしまう。原因はよくわかりません。
割と見かけるのが、エッジよりソールが凹んで段になっていること。エッジ全体に渡ってそんなふうになっていることは流石にないですが、ソールとエッジの境目に指先を滑らせていくと、ほんのわずかひっかかる部分があるみたいな。多分、ベベル(注2)加工で発生するんじゃないかな。ベベル加工は回転する砥石で、エッジとソールを同時に削って角度をいれるのです。金属のエッジとソールは、硬度も粘りも異なります。どうしてもP-TEXのソールのほうが早く削れてしまうことがあり、部分的にソールがエッジよりも凹むんじゃないなと思っています。
裏返しにした時、エッジよりソールが窪んでいるということは、雪上に置くと、エッジが雪面に食い込むことになります。これ、ほんのわずかな段差でも、人工雪などのパックバーンではひっかかりが気になります。切れ味の良い波目ファイルなどで、段差の部分のエッジをカットしてやるといいでしょう。手作業で丁寧にカットすれば(波目やすりは、やすりと言うよりもナイフみたいなものです。鉄も切れるナイフ。)エッジとソールを同じようにカットできるので、段差ができることはありません。
次にダイカットソールの場合についてです
Salomon のAssassin のソールは複雑なダイカットです。ベースのソールに穴を開けておいて、黒いソールから切り出したパーツをはめ込んで、熱圧着加工で一体化させるています。ソールをカットする時に精度が出ていないと、一体にする時に隙間ができてしまいます。また、フラット出しの時に、ダイカットのつなぎ目に段差ができていることもあります。多分ですが、ソールのカラーによってほんのわずかに硬度が異なるのではないかと思っています。柔らかいパーツと硬いパーツを組み合わせて、サンディングすれば、柔らかいほうが先に削れますので。
複雑なダイカットソールだが、綺麗にフラットで段差なし
さすがやね、サロモン
ダイカットソールの注意点ですが、ボードとソールの貼り付け強度は、接着剤の「接着力」と「接着面積」に左右されます。ですので、あまり細かい線をダイカットで作ると、接着面積が不足して、剥がれやすくなります。
Bataleon のロゴマークは幅が非常に狭いので
剥離のリスクはちょっと高め
最後に、コストダウンと品質のバランスについて。
良いソールに仕上げたいなら、いいファクトリーに頼みたい。でも、いいファクトリーは加工賃がお高め。で、シンプルな加工方法で工数を減らせば少しは安くなります。
ダイカットをやめて、一枚ソールにすれば工数は減らせます。一枚ソールならつなぎ目も減るので、浸水リスク(エッジのサビ、芯材の膨張・剥離)も減らせます。
ソールのデザインがカッチョいいと、気持ちが上がるんですよね。その点は大事にしたいけど、パークとかに全く入らない僕にとっては、ギャラリーに見せるわけでもないので…シンプルで滑走性のいいソールを優先したいなぁ。
(注1)ボードのセンターがわずかに凹んでいる(コンベックス)になっていても、実際の滑走ではさほど影響はありません。ボードでターンを連続している時、雪面に接するのはエッジと、そこから2~3cm程度のソールにしかすぎません。ですので、全体としてコンベックスでも、エッジとその脇のソールがフラットで、適切なベベル角が入っていることが重要です。そもそも常温でフラットなボードは、雪上ではだいたいコンベックス(中心がわずかに凹む)になっていることが多いのです。
(注2)ベベル角とは、ソール表面に対して、ソールエッジの角度を1~2度逃す加工方法です。これにより、ソールがフラットに接地した時に、ほんの少しエッジが浮き上がるようになります。1度が基本で、大きくなると安定感は減りますが逆エッジになりにくく、パークのアイテムで遊ぶ時に操作性が上がります。