*文中の名前はすべて「仮名」です。また、この投稿を含むすべての内容はフィクションです*
谷口君が、センター街の雑踏の中を小走りで戻ってきた。
真冬だというのに汗をかいている。
トレードマークの黒縁メガネは汗でずり下がり、今にも鼻梁から落ちそうなところでかろうじて止まっている。
谷口君は、大きな体を縮こませて言った。
救急車…今日はお休みです!
谷口くんは分厚い近視レンズの向こうで途方に暮れていた。
同期で会計を担当している飯田の足元に、2年の小田ちんがぶっ倒れている。
いや、放っておくとぶっ倒れてしまうのだけれど、それは誤嚥から窒息につながるおそれがある。飯田くんは小田ちんの両足を広げさせ、上体を起こし、歩道の縁に座らせている。
今日の月例コンパは、スタートからなんとなく嫌な予感がしていたのだ。
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写真はイメージです |
時間に正確な小田ちんが遅れてきた、なんとなく表情が暗い。そんでもって、乾杯をしてから、酒のペースが早い。んーちょっと心配…
案の定、2次会の終盤で小田ちんが沈没した。
こうした時、ボクらの行動は素早い。
座敷で嘔吐すると、ボクらの次で予約入っているお客が入れなくなる。掃除も大変で迷惑がかかる。迷惑料を払う財力もないから、よき市民たるべき僕らはそんなことはしない。
僕ら3回生・4回生のトラブル対応チームが、小田ちんの周りに集まる。
えっとねー集金と会計は飯田に任せよう。終電やばい奴いないか、確認して〜1年生二人くらいに忘れ物チェックやらせて〜2年は小田ちんの持ち物確認して〜お店からビニール袋何枚かもらって〜それと、いらないダスターかペーパータオルもね〜
とりあえず小田ちんをトイレの個室に搬送し、一発目の ゲ◯放出
はいはいはい、そしたら外出るよ〜
ちょっとすっきりしたっぽい小田ちんの両脇を抱えて、表の道路に出る。
帰る人は帰り、残りたい人は残る。
一部のメンバーは、「すぐそこの太平洋から朝日が昇る」みたいなところにある実家から通学している。1次会ですでに終電が無いから、飲み会と言えばオールになる。年頃の娘がそんなことしていいのかとは思う、口には出さないけど。
ん?小田さん…唇が青くないですか?
街灯の色のせいじゃない??ん???
まずい…小田ちん…耳の裏まで血の気が引いて真っ白。
唇も真っ青で、呼吸が浅い。
振り向いた先にいた谷口君に、救急車を呼ぶように頼んだ。
他のトラブル対応チームの奴らが、コーラとポカリを抱えて走り寄ってきた。
炭酸を飲ませて、もう一度吐かせる。胃の中に入っているアルコールを流して、追っかけでポカリを飲むことで糖質と水分を補給させる作戦だ。
そこに谷口くんが小走りで戻ってきて、言ったのだ。
救急車…今日はお休みです!
U飼先輩が半分キレたみたいに言う。
んなわけねーだろーがよぉ?!何度かかけたんだろうな?電話ぁ!?
んーそーゆー問題じゃ無い気もするがぁ…普通呼び出しすぐでつながるし…
谷口くんが、心外だと言いたそうに反論した。
何度もかけたけど繋がらないんですよ!!911ぃ!!
…
…
…
なんですか?なんなんですか?救急車、きっと今日はお休みなんです!
…
…
…911は、アメリカや。アメリカの消防や。
…日本は119や。
結局、他の2回生が救急車呼んでくれた。
小田ちんがコーラ&ポカリの3回転を終えて、回復しつつあったタイミングで救急隊が到着し…ボクらは小田ちんのせいでお目玉を喰らうことになった。
という夢を見た(言っときますが全部フィクションですからね)。