このブログを検索

2025年3月18日火曜日

救急車がお休みです

*文中の名前はすべて「仮名」です。また、この投稿を含むすべての内容はフィクションです*

谷口君が、センター街の雑踏の中を小走りで戻ってきた。
真冬だというのに汗をかいている。

トレードマークの黒縁メガネは汗でずり下がり、今にも鼻梁から落ちそうなところでかろうじて止まっている。

谷口君は、大きな体を縮こませて言った。

救急車…今日はお休みです!

谷口くんは分厚い近視レンズの向こうで途方に暮れていた。
写真はイメージです

僕は、サークルの幹事を務めていた。

同期で会計を担当している飯田の足元に、2年の小田ちんがぶっ倒れている。
いや、放っておくとぶっ倒れてしまうのだけれど、それは誤嚥から窒息につながるおそれがある。飯田くんは小田ちんの両足を広げさせ、上体を起こし、歩道の縁に座らせている。

今日の月例コンパは、スタートからなんとなく嫌な予感がしていたのだ。
写真はイメージです

時間に正確な小田ちんが遅れてきた、なんとなく表情が暗い。そんでもって、乾杯をしてから、酒のペースが早い。んーちょっと心配…

案の定、2次会の終盤で小田ちんが沈没した。
こうした時、ボクらの行動は素早い。

座敷で嘔吐すると、ボクらの次で予約入っているお客が入れなくなる。掃除も大変で迷惑がかかる。迷惑料を払う財力もないから、よき市民たるべき僕らはそんなことはしない。

僕ら3回生・4回生のトラブル対応チームが、小田ちんの周りに集まる。

えっとねー集金と会計は飯田に任せよう。
終電やばい奴いないか、確認して〜
1年生二人くらいに忘れ物チェックやらせて〜
2年は小田ちんの持ち物確認して〜
お店からビニール袋何枚かもらって〜
それと、いらないダスターかペーパータオルもね〜

とりあえず小田ちんをトイレの個室に搬送し、一発目の ゲ◯放出

はいはいはい、そしたら外出るよ〜

ちょっとすっきりしたっぽい小田ちんの両脇を抱えて、表の道路に出る。

帰る人は帰り、残りたい人は残る。
一部のメンバーは、「すぐそこの太平洋から朝日が昇る」みたいなところにある実家から通学している。1次会ですでに終電が無いから、飲み会と言えばオールになる。年頃の娘がそんなことしていいのかとは思う、口には出さないけど。

ん?小田さん…唇が青くないですか?
街灯の色のせいじゃない??ん???

まずい…小田ちん…耳の裏まで血の気が引いて真っ白。
唇も真っ青で、呼吸が浅い。

振り向いた先にいた谷口君に、救急車を呼ぶように頼んだ。

他のトラブル対応チームの奴らが、コーラとポカリを抱えて走り寄ってきた。
炭酸を飲ませて、もう一度吐かせる。胃の中に入っているアルコールを流して、追っかけでポカリを飲むことで糖質と水分を補給させる作戦だ。

そこに谷口くんが小走りで戻ってきて、言ったのだ。

救急車…今日はお休みです!

U飼先輩が半分キレたみたいに言う。

んなわけねーだろーがよぉ?!
何度かかけたんだろうな?電話ぁ!?

んーそーゆー問題じゃ無い気もするがぁ…普通呼び出しすぐでつながるし…
谷口くんが、心外だと言いたそうに反論した。

何度もかけたけど繋がらないんですよ!!911ぃ!!


なんですか?なんなんですか?
救急車、きっと今日はお休みなんです!

…911は、アメリカや。アメリカの消防や。
…日本は119や。

結局、他の2回生が救急車呼んでくれた。
小田ちんがコーラ&ポカリの3回転を終えて、回復しつつあったタイミングで救急隊が到着し…ボクらは小田ちんのせいでお目玉を喰らうことになった。

という夢を見た(言っときますが全部フィクションですからね)。