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2021年8月20日金曜日

山力(ヤマヂカラ) その1 アオちゃん

タカさんはクスクス笑いながら続けた。

アオちゃんみたいな奴もいますからね…
だね… 
ジブッチもかなり偏ってますよね…
笑… 
ヨーイチなんか、普通は、雪山はダメだよね 
笑笑…

僕たちは、雪山宴会部でゲストメンバーを受け入れするときの条件について話をしていた。

僕とアオちゃん

雪山宴会部は、名前の通り雪山で宴会して泊まって…周囲の山に登って滑るって遊びをしていた。新しい仲間を誘いたくなるのだけれど、雪山だからリスクはある。ゲストとして招いた人が負うリスクももちろんなんだけど、一緒に行動する僕らのリスクもある。

そう考えると、あまりにもリスク管理が難しい人は誘えないよねということになり、では、誘えるかどうかを、どうやって線を引くかということになった。

ジブッチ、タカさん、アオちゃん

で、ある登山者が持っている能力を「山力」と呼ぶことにしよう。僕とタカさんは雪山宴会部が求める山力は、「滑走技術」「体力」「生活技術」の3つであると考えた。ところが、そこから具体的な基準に落とし込むところで、話が変なほうに進み始める。

まず、スキーでもボードでもいいけど、安全に滑れる技術は必要だよね。
ですね、カッコはどうでもいいですけどね。 
荷物重いからちょっと独特なんだよね 。
ゲレンデではありえないコンディションでも滑りますしね。 
そう、それに、危険地帯を素早く抜ける必要があるから、モタモタされると困るよね。

でも…アオちゃんみたいな奴もいますからね…

以前 HAPPINESS AOKI という投稿で書いたけれど、部員のアオちゃんのことを話すとおかしなことになる。彼はスキーは下手…というか、初心者に毛が生えたくらいだった。

でも、部員としてはまったく問題なく行動していた。

そういえば、アオちゃんって、滑りは下手だけどモタモタはしないんだよね。
ですね、シールの取り扱いとか、ハイクは上手だと思います。 
そうだね、自分が遅れることを知っていて、行動を組み立ててるよね。 
ですです。行動中に、次の休憩で何をするか考えてますね。 
で、結果的に周囲を待たせない、というかむしろ先行して偵察とかしてくれる。 

で、まぁ、アオちゃんみたいに、滑走技術だけで見たらギリギリって奴を、単純に「来ないでね」って言ってしまうのは勿体無いってことになる。

で、じゃぁ、彼の山力のベースはなんなのか、ということだけれど、それは、ワンゲルの部長として培った、溢れ出る体力と、山の生活技術。そして何よりも、彼の人柄なんじゃないかなという話になった。

つまり、滑りが下手でも、怪我しないように滑れること。ガッツがあって(⇦昭和感)、山に慣れていて、人に愛される存在であれば、まぁいいかということになった。

雪洞で雪を溶かして水造るじゃん。あれ、冬山の生活技術出るよね。(注1)
アオちゃん、スーッと来て、コッヘルがひっくり返らないように押さえてくれるんですよね。
そう、ジブッチはまったく気にせずにビール飲んでるけどね。
wwwwwwwww
あ、そうそう、アオちゃん、コッヘルの底に結露出ると、丁寧に拭うんですよね。
そんなところにも、生活技術というか人柄が出るよね。
ジブッチはしないですけどね。

そんなアオちゃんは、山を引退して久しい。

つづく

注1 雪山では雪や氷を溶かせば水が確保できる。しかし、効率よく溶かさないと燃料が足りなくなる。まず、重要なのは「呼び水」。最初に水を入れて、それをお湯にしながら、雪や氷を足していく。雪だけを入れて一気に加熱すると、最悪の場合コッヘルが壊れてしまう。そして、加熱をしていくと、鍋が結露で濡れて、汗をかいたようになる。この結露をこまめに拭き取ってやることで、熱が入りやすくなり、時間短縮と燃料の節約につながる、と言われている。

2021年8月26日木曜日

山力(ヤマヂカラ) その3 カメちゃん

*写真と本文は関係ありません*

少し上の斜面で転んだカメちゃんが、クラスト斜面を横滑りしながら僕の脇まで降りて来てこう言った。

部長、足やっちゃったかも…
え?マジ?
はい…折れた、と、思います、すみません。
足のどこだ?どんな感じで折れた?
足首のちょっと上です。転んだら、スキー取られて… 
ブーツの中で「バシッ」って音がしました。

僕らは草津芳ヶ平でBC合宿をして、下山を始めたところだった。最終日もハイクアップして滑ろうと思っていたのだけれど、あいにくこのシーズンは暖冬で小雪。しかも数日かけて緩んだ雪面がこの日は寒気が入って、2cmくらいのブレーカブルクラストになっていた。

で、こんな状態では滑ってもつまらないだろうということで、とっとと下山して温泉でも行こうかということになった。
富士宮口五号目でハイクの準備

ヒュッテのご夫婦や犬たちに見送られて、夏道を降り始めた。そして5分ほど降ってトラバースを過ぎ、傾斜が増してちょっと広くなった斜面の途中でカメちゃんが転んだ。

至仏山に向かう

ここは、ここ数日の間に下山した人たちのシュプールが、そのままの形で凍りついていた。表面はガリンガリンのボコンボコンで、板をズラすことが難しい。で、仕方なしにプルークで減速するのだけれども、テールでクラストを踏み抜くと板がロックされて、前に発射されてもんどり打って転ぶという、地獄のような悪雪だった。

カメちゃんアオちゃん

カメちゃんの顔は心なしか青白い。部員がみんな周囲に集まる。

ブーツ外して圧迫固定するか? 
交代で背負ってヒュッテまで戻るか?(注1)
いや、ブーツ外したら2度と履けないと思います、降ります。
とりあえず荷物降ろそうか、降るにしても戻るにしても、空身でなければ無理だろう。
ありがとうございます、お願いします。

僕らはカメちゃんの荷物をそれぞれに振り分けた。合宿の最終日だったので、バックパックには多少の余裕ができていたのが不幸中の幸いだった。そして、空になったカメちゃんのバックパックは、僕が体の前に横向きにして抱えた(注2)。

Blackdiamond Megamid を張る

カメちゃんは僕らの心配そうな視線に気がついた。

休んでいると動けなくなりそうなので、降ります。
解った、じゃぁ、他のメンバーでデラ(注3)かけて、整地しながら降る。その後をついて来てくれ。
わかりました、ありがとうございます。

で、僕が先頭になって、プルークからデラパージュ、プルークで向きを変えてデラパージュと、整地を試みながら降る。表面の凸凹はほとんど削れないのだけれど、一人、二人、三人と同じようにデラがけしながら進むと多少は滑りやすい雪面が後に残る。

骨折したほうの足首に力を入れられないカメちゃんは、ずっと同じ方向を向いたままの横滑り下山になる。疲れて息が上がると少し休み、夏道が平坦になったり少し上り坂になると、他の部員がすっと近づいて歩行を助ける。

下山路を半分くらい降ったところで、ようやくブレーカブルクラストも緩んで、そこからは重いけれども、デラが良くかかるザラメ斜面になっていた。
湯河原幕岩でアナザガールを登るカメちゃん

その先記憶がちょっと飛んでいて、次に覚えているのは医務室からケンケンしながら出てくるカメちゃんの姿。ゲレンデボトムにパトロール小屋があり、その隣に医務室があった。そこで応急処置をしてもらって、カメちゃんは足首をシーネ固定してもらった。

みんなは車に戻って、すぐに最寄りの病院に行けるように撤収準備をしている。で、医務室の外には、僕ともう一人の部員がカメちゃんに肩を貸せるように待っていた。

なんだって?
多分、いや、ほぼ間違いなく折れてるそうです。
ブーツの中だったからまだ良かったけど、1箇所か2箇所か折れてるみたいです。
そうか…良く頑張ったね。
次にこんなことになったら、自力下山せずに助けを呼ぶようにと言われました。
次回は…無いようにしたいね
ですねw

カメちゃんの口から、クスッと笑い声が出て、僕らは下山できたことに感謝した。

僕は思う、やっぱりあの時、僕はリーダーとして、自力下山を止めるべきだったんだろう。

ただ、「山力」とは、そもそもなんだろうか?とも考える。

カメちゃんは自分の怪我の状態と、天候や雪の状態を冷静に判断して、自力下山を選択した。そして、部員のサポートを得ながらそれを成し遂げたし、部員のみんなは何も言われなくても、カメちゃんの下山をサポートした。

山力とは結局のところ、自力で登山を完結できる力なんじゃないかな。そう考えると、カメちゃんの山力ってスゲーなと思う。

あれから15年と少し経ったけど、カメちゃんは相変わらずBCテレマークを続けている。東北の山で、楽しそうに登って滑っている姿をSNSで見る。

で、そんな投稿見ると、カメちゃんが「降ります」と言った横顔を思い出す。引き締まって、血の気の引いた唇と、青白い頬を思い出して、つい口に出すのだ。

やっぱスゲーよ、カメちゃん…

つづく

注1 本来なら、ヒュッテに戻って荷運び用のモービルかヘリを頼むのがベストだったと思う。この時は降り切ることができたけれど、僕の判断は間違えていたと今でも思う。

注2 怪我人がもう一人出たら、自力下山がさらに困難になっただろう。不要不急の荷物はマーキングしてデポし、全員が最低限の負荷で降るべきだったか?と思う。

注3 デラパージュ(横滑り)は、斜面に対して横向きになり、板を横に滑らせていく技術。板のエッジが雪面を均しながら進むことができる。

2021年8月7日土曜日

山に還ろう テント泊のススメ

山で遊ぶ人が増えたらいいなって、僕はこのブログを書いている。

ただ、最初っから興味ないという人を、ムリして引き込もうとは思っていない。日焼けしたくない、虫触れない、和式トイレムリ、汲み取りとか失神。それに近い人と山に行ったことはあるけれど、僕は楽しくなかったし、あの人も楽しめなかっただろうと思う。

そして、すでに山でブイブイ言わしている人は、僕が働きかけるまでもない。

ハイキングだけじゃなくて、MTBとか、ロードバイクとか、残雪期とか、BCとか、違う切り口で山に行きたいとか…

昔は良く山に行っていたけど、なぜか忘れたけど、随分長く離れてしまったとか。家族ができて、オートキャンプしかしていないとか。

家族でのオートキャンプ@スイートグラス(北軽井沢)

そんな人たちが僕のブログを見て、「あ、次の休みにはこれやってみようかな」とか、「涼しくなったらこれもいいね」とか、「20年振りに八ヶ岳行ってみようか」、そんな風に思ってくれたら嬉しいね。

実際のところ、僕も家族ができてからはオートキャンプが中心になっている。でも、奥さんが妊婦さんだった時もキャンプには行った。
榛名山のあづま森林公園

体を冷やさないように、あえて4シーズン対応の REI 山岳テント。これなら冷え込んでもベンチレーションを閉めれば暖かく過ごせるから。タープは一度立ち上げてから、片側をペグから外して畳む。日差しを遮りながら、上方の開放感を得られるのでぼくはこの張り方をよく使っていた。

テントを使うことで、普段なら行けないところまで足を延ばすこともできる。ある時僕は、黒部ダムから入って劔岳を登った。
黒部ダムの湖畔 小川テントフェルカドドーム

この時は六月で、思ったよりも雪が多かった。登頂は果たしたけれど、12本爪のクランポンにアックスで雪壁の登攀があったりとか、けっこうチリチリするような山行だった。水場も雪の下で、飲料水を作るのにホワイトガソリンの消費が激しく、ぐるっと縦走する予定を早めに切り上げることになった。
明日はいよいよ剣岳登攀

日帰りだとちょっと届かないかな?ってコースも、途中まで登ってテントで泊まれば行けることもある。翌朝はテントをデポして、荷物を軽量化してピストンすれば良い。

丹沢山系を登るのに、塔の岳なら日帰りピストンは可能。ただ、せっかく行くのなら、最高峰の蛭ケ岳まで足を延ばしたい。そこで、大倉尾根の途中にあるテントサイトで一泊する。

前日は天城山を登ってから大倉に移動。準備を済ませて大倉尾根を登る。時間には十分余裕があるので、のんびりと体を休めて早めに就寝。
ヨーレイカのドームツェルト@大倉高原山の家 丹沢

甲斐駒ケ岳も同じ方法で登った。荷物を削って行動すれば、日帰りも可能だったのかもしれないけれど、残雪期なので無理をせずにテント泊。テン場到着した時は、残雪が緩んでしまっていた。一泊して朝日の出る前に動き始めれば、良く締まってクランポンがしっかり効く快適な登攀が待っている。
七丈小屋上のテン場

遠方の山を登る時も、テント泊を組み合わせることで行動範囲が広がる。早朝から荒島岳を登って、下山してから白山に移動する。車中泊して翌朝日帰り登山でもいいのだけれど、せっかくなら山中で過ごしたい。

昼少し過ぎに入山し、早めにテン場について泊まる。行程が短いので、豪華なディナーを用意していくのもいいだろう。
明日は白山を登る Big Agnes のソロテント

連休が取れたら、テントを背負ってのんびりと縦走をするのも最高だ。例えば、黒部湖から入って、読売新道から水晶、ぐるっと回って黒部五郎とか薬師とか回って、室堂アウトとかね。

奥黒部馬蹄形最終夜@五色ヶ原、明日は黒部湖?室堂?

テントから外を見れば、すぐそこには山があるってのも最高。
黒部山中で夜を待つ

テントは寒くないのか?
寒くないように万全を期せば荷物が重くなる。寒くならないギリギリの線で装備を削って行くので、外せば寒い。ツェルトドームは雨降れば漏るし、春秋に夏用のスリーピングバッグなら確かに肌寒いかもしれない。

晩秋の山ではかなり無防備なツェルトドーム

まぁ、その辺は経験次第なので、とにかく出かけて見ればいい。
オートキャンプでスクリーンタープを張ったら、その中で蚊帳の代わりにテントインナーを張って寝るのもいいだろう。

MOSS Hooped OutlandのインナーをColeman Screen Tarp内に張る

テントのセットアップを済ませて、一杯やって、温泉入浴時間を待つひとときもたまらない。
黒部阿曽原温泉で男性入浴時間を待つ

荷物を担ぐ力が無い?無理せずに近場に行けばいい。それに、昔の山道具と違って、今のテント泊装備はコンパクトで軽い。僕の場合、昔はテント泊なら65L+のバックパックだった。最近は40L+で行けないかって、いつも考えていて、実際それで行けることも多い。65Lが出動するのは3泊以上とか、残雪期くらいなのが現状。

それか、信頼できる友人と一緒に行く。
合戦尾根の急登を登ってテントで宴会!なら、体力のあるパートナーが心強い。
Sierra Designs@ 燕山荘 ユーちゃんと

山で使えるテントは耐久性に富んでいるので、普通の使い方なら10年は持つはず。
小川テント フェルカドドーム 場所不明

頑張ってテン場に早く着けば、景色のいいところを選べる。明日はここに行くのだ、そんな景色を見ながらビールを飲む喜び。
大天井岳から明日行く槍ヶ岳を見る

中房温泉から合戦尾根を登り、燕岳のピークを踏んで大天井岳でテント泊。明日は東尾根から槍ヶ岳を踏んで、南岳へ。

南岳は雪渓から溢れる豊富で冷たい水場があり、明日の大キレット通過の活力を蓄える。
南岳のテント場

いろいろな季節に、いろいろな場所で、いろいろな人とテントで泊まる。もちろんいろいろな気象環境で、時には最高で、時には最低なw 経験もするでしょう。

でもまぁ、体力があるうちに始める(再開する)のが大事なんじゃ無いかな、そんな風に思います。
ふと気がついたら雪の壁

ま、今のコロナ禍では、複数で密テントは無理かもしれない。でも、コロナがおさまったら、テント担いで出かけて見るのもいいんじゃないかな?

くれぐれも、ご安全に。

2021年8月22日日曜日

山力(ヤマヂカラ) その2 ジブッチ

アオちゃんが正統派の山屋だとすると、ジブッチはかなり偏っている。

ジブッチ、敵も多い

雪山宴会部が立ち上がってすぐ、ジブッチがBC合宿に参加したいと言ってきた。

スキー?楽勝です。山形生まれの山形育ちですよ。
雪国育ちだからって、スキー滑れるとは限らないだろう?
いや、部長、それは中途半端な雪国だったらそうでしょうね。

違うのか?

俺の故郷はただ豪雪なだけじゃなくて、ものすごい寒いんですよ。スキーできないと通学もできないし、下手したら通学路で凍死しますからね。

…そもそも、ジブッチ登山やったことあったっけ?
何言ってるんですか〜山形の山猿ですよ、ボクぁ!毎日が登山ですよ。エブリディ・クライミング、エブリディ・サバイバルって感じでしたから。

で、まぁ…一抹の不安を抱きながらOKした。

合宿のテン場へは、ロープウェイの山頂駅が入山口になる。スタートして最初はほぼ平坦なのだが、ジブッチは明らかに遅れ始めた。

ジブッチ、大丈夫か?どこか悪いのか?
何言ってるんですか部長、汗をかかないように歩いてるんですよ。
????
八甲田山死の彷徨って知ってますよね?
お、おう。 
あれも結局ですね、行動中にかいた汗が原因で、疲労凍死に至るわけですよ。なので僕は汗をかかないように行動することを心がけているんです。
……それにしても遅すぎないか?みんな待ってるぞ?
部長も割とせっかちなんですね、早死にしますよ?

お分かりだろうか?

どちらかといえば体力不足で、雪山登山の経験もほとんど無い彼に、「上から目線の、BCアドバイス」を賜る時のイラつき感。

こうやって、彼はいろいろなところに敵を作ってきた。

アオちゃん、ジブッチ、タカさん@立山

肝心の滑走技術はどうか?

ジブッチはテレマークスキーの破壊者だった。
道具は細板に革靴という、正統派テレマークなのだ。しかし、滑走はアルペンターン一筋。

ジブッチさ、たまにはテレマークターンしてみたら?
踵上げると転ぶんですよね。だから上げなくていいかなって…
テレマークの意味ないじゃん!
いや〜道具が安いからテレマークにしたんですよ(注1)。
別にテレマークスタイルに思い入れもまったくないですし… 
軽いし、歩きやすいし、安いからって感じです。

お分かりだろうか?

それなりに練習して、やっとテレマークが滑れるようになった。そんな過程を経て、テレマークという文化に対してそれなりにリスペクトを抱いている僕の前で、

いや、僕、まったく思い入れないです。
安いからこれにしました〜!

と、言い切られる時のイラつき感

彼の滑りはものすごいユニークで、全体重を踵に乗せて滑るのだ。新雪に行くと、体重がかからない先の半分、ブーツのつま先からスキートップまでは、ずっと雪の上に突き出したまま滑っていく。

ジブッチさ、カカト荷重も極端過ぎないか?スキーの後ろ半分しか使ってないじゃん。
部長、そうなんですよ。今度軽量化のために、前半分切っちゃおうかなって思ってるんですよね。どうせ使ってないし。 
スキートップが無かったらラッセルできないだろう? 

彼はニヤリと笑って言う。

 先頭ラッセルできない理由になりますね!

つまり、ジブッチは「滑走技術」「体力」「生活技術」の山力3要素は、落第点ギリギリ。でも、不思議と、彼の参加はみんなウエルカムで、気がつくと一緒に居た。ジブッチについて、みんなはこう思っているんじゃないかな?ということを、創作交えて書くとこんな感じ。

気が利かないくせして、一番美味しいところにささっと居ますよね。
そう、鍋の準備とかしないのに、不思議とベストポジションでブキ持ってる(注2)。
ハイク遅れるのに、絶好のドロップインポジションで先頭に居たりとか。
そんで滑ると、まっさらの斜面ですっ転んでメタメタにしちゃうとか。

でも、凄い楽しそうなんですよね。誰よりも楽しそうw
憎めないよね、カチンと来る時もあるけどw
カチンと来るんだけど、よく考えてみると、まともなこと言ってるんですよねw 
嘘が言えないんだよね、思ったことがそのまま出ちゃうw

僕は接客業をしていたことがあるので、愛想の良さとか、丁寧な対応とかは、どちらかと言えば得意だ。しかし、正直言うと、本質的に、僕は人付き合いが下手だ。

そして、苦手な僕でも人当たり良くできるということは…それは、あくまでも訓練で身につけた技術であって、僕の本質ではない。

僕だけじゃなく誰でも、大人になるにつれて、「人当たりの良さという仮面」をかぶって生きていく。で、仮面の存在には、みんな気がついている。

嵐の夜にテントの中で酒を一緒に飲んでいると、だんだんと仮面が取れていく。そして、素顔が現れた時に、それぞれの魅力とか欠点とかが露わになる。

そして、ジブッチが偏っているように見えるのは、みんなが仮面をかぶっている中で、彼だけが素顔でいるからということに気がつくのだ。

それはイヤ、それは大好き!と、裏表なく正直に口に出し、合宿になるとあいつが一番楽しそうに過ごす。

「やっぱりジブッチがいないとつまらない」ということが、彼が部員であり続けた理由なのだろうね、山力は置いといて。

部長、モタモタしてると置いていきますよ!

榛名黒岩南面最上部、下降の準備

そんなジブッチは、関西に移住し、スキーを引退して久しい。

雪山はやっていないけれども、クライミングはずっと続けている。今では結構な高難度とか、ヨセミテのビッグウォール遠征とかも楽しんでいるようだ。

つづく

注1 当時のテレマークギアは安価だった。ブーツが3〜5万円、板もそれくらい。バインディングなんて3ピンならば8,000円くらいで買えた。僕も正直言って、ギアが安いからテレマークスキーに移行したってのも、否めない事実ではある。

注2 山屋は食事の道具、箸とかスプーンのことを「ブキ」と呼ぶ。

追記: うっかり、ジブッチが秋田出身って書いちゃったけど、実際は山形だったので訂正しました。秋田はハタッキーだったね…

2021年9月8日水曜日

中古ホイールセット買いました (2/2)

さて、次はリアホイールのオーバーホールだ。

ハブボディには、フロントと同様にシールドベアリングが圧入されている。違いは、フリーボディがついていること。 そのせいで、分解と清掃がちょっとだけ手間が増える。

ただ、昔のルーズボールベアリングみたいに、ベアリングを落としてしまって、泣きながら探し回るようなことはないのがありがたい(注1)。

まずは球押しを緩めて、ハブシャフトとフリーボディと一緒に引き抜く。
フリーラチェットの摩耗と埃の汚れ

シャフトそのものの汚れはなく、サビも見当たらない。
シャフトは綺麗で汚れもない

さて…フリーボディのロックナットを緩めてシャフトから引き抜いてと…

ロックナットが固着していて回らない…

シャフトの両端に、スパナをハメてクイって回せば外れるのだけれど…よく見ると、ノン・ドライブサイドの、スパナを噛ませるところが…微妙にナメている。

実は、ここのロックナットは「逆ネジ」なのだ。

ははーん! ピンと来た。

前のオーナーは、逆ネジに気がつかなかったのかも?そして、緩めようとしたけど緩まないので、ぎゅっと締め込んでしまってドツボにハマったのか?

こんな風に締めちゃったナットは、慎重な扱いが必要だ。オーバートルクで締まってるので、オーバートルクで緩めないといけない。だが、オーバートルクをかけると、スパナが滑ったり、外れたりするリスクが高まる。スパナが滑ってナットの山を舐めると、取り返しがつかなくなる。

本来ならば、山が甘くなった片側は、万力でがっちり固定しておく。そして、山が生きている反対側にスパナをしっかり効かせて、慎重に緩めていくのだけれど…万力がない。

万力が欲しいなぁ

仕方がないので、モンキーレンチを作業台に万力で固定。固着したロックナットには Wako's のルブを浸透させて慎重に…外れた!

アルミシャフトに、浅いネジピッチ、スパナのかかりが浅いロックナット。こうした設計は「決してオーバートルクで締めないでください」というサイン。3mm 以下のヘックスボルトや、アルミのナット・ボルトなども同様で、特に注意がなければ1~3Nm 程度のトルクで締める。もし、緩みが心配になる部分なら、中強度の緩みどめをつけるべき。

で、そんなパーツを緩めようとして、ダメな場合はよくマニュアルを見るべきだ。「逆ネジ」であった場合は、取り返しがつかなくなるから(注2)

ちょいサビ・汚れ

フリーボディ内部のベアリングからは、わずかに赤錆汚れ。グリスはほぼ抜け切って、汚れを吸っている状態。まだゴリ感は出ていないので、ギリギリセーフなタイミングかな。

綺麗に清掃し、奥に入った汚れはパーツクリーナーで洗い流す。そして、ベアリングと、フリーボディの爪にはチタンスプレーを浸透させる。

清掃完了

グリスを溢れさせがなら組み付けるのはフロントと同じ。ここがグリス切れすると、洗車の時に水が入ってサビを呼ぶことになる。
むにゅっとなー

ここで注意しなければいけないのは、フリーのラチェット部分には専用グリスを使うこと。「フリーハブ・グリース」という、ちょう度のひくい、粘度の低い、つまりは柔らかいのを使う必要がある。
専用グリス、右は汎用グリス

ラチェットの爪が寝たり立ったりすることで、フリーハブは機能を発揮する。ペダルを漕いで時計回りにトルクがかかった時は駆動力を車輪に伝える。ペダルを逆回転させる、またはペダルをこがずに前進するとき、フリーは連結を解いて空転する。

これが、自転車に乗っていて空走状態の時に聞こえる「チーーーー」というラチェット音の正体だ。

固いグリスを入れてしまうと、爪が立ち上がってくる動きを邪魔してしまう。これが極端になると、空走状態から加速しようとペダルを踏み込んだ時が問題だ。ペダルを踏み込んだ時に、爪が起き上がらず、ラチェットに噛まず、ペダルをスカッと空振りする。こうなると、良くてキン◯マを強打、最悪は落車となる。

そして、爪とハブのラチェットはいつでも触れ合っているわけで、ここに異物が入ると途端に寿命が短くなる。そんなわけで徹底的に清掃して、汚れがつかないように注意しながらグリスを入れる。

清潔なヘラでグリスを入れていく

フリーハブグリスは、柔らかいので、浸水防止効果は弱い。そこで、フリーボディをハブに押し込んで行って、パッキンがハブ体に入り込む直前で汎用グリスを封入してやる。
追っかけグリスで防水

フリーボディとハブが一体化すると、この追いグリスは、ほとんど表側にはみ出してきてしまう。実際のところ、これがどれだけ意味があるのかは微妙で、ほとんど自己満足の世界だろうね。まぁその、自己満足が素人メカニックの原動力なんだし、趣味でやってるのだから、危険を招かなければ好きにすればいいかな。
これぐらいの量があればシール効果は期待できる
乗るのが楽しみだなぁ

注1 中学・高校時代にハブの分解清掃では散々痛い目にあった。教訓は、「芝生の上でやってはいけない(磁石で探さない限り発見不可能)」「砂利の上でやってはいけない(同じくw)」「アスファルトの上でやってはいけない(穴に入って見えなくなる)」「コンクリートのもいけない(弾んでどっかに跳んで行くw)」「薄暗いところでやってはいけない(論外w)」。ボールベアリングを落とした時の絶望感w

注2 自転車には、ポイントポイントで「逆ネジ」が使われている。ねじ込み式ボトムブラケット、ペダル、そして今回のようなハブシャフトのロックナット。自動車やモーターサイクルは、頑丈な鋼鉄で径の太いボルトを使って、ハイトルクで締め付けができる。パーツの重量が性能に及ぼす影響は少ないから。だから、軸とその周囲を回る回転体がどっち方向に回っているとかあんまり関係ない。ところが自転車の場合は、高いトルクでの締結ができない(ボトムブラケットで40Nm程度)。だから、そこと接触する回転体が緩み方向に回っていると、いつかはネジが緩んでしまう。で、回転体の締め付けナットは、ロックタイトを使うとか、逆ネジを活用することになる。

2023年10月23日月曜日

Hike4 西黒尾根からオキノ耳往復

近くて良い山、谷川岳。
通い始めたのが20代の後半だから、かれこれ30年の付き合いになる。

残雪期登山と山スキー、初夏の縦走、真夏の川遊び、秋の紅葉…
四季折々の変化や、ルートによって異なる展望に惹かれて何度も行った山。

最近は、自分の山力を測るベンチマークとして、西黒尾根を登ることが多くなった。

ボトムからトマ耳までの時間
疲労感
足の捌き
高度感 
バランス

谷川馬蹄形や主脈縦走、妙義山稜線縦走とか、平ヶ岳や皇海山日帰り…心身ともに負荷が高いルートがある。そうしたルートに自分が入る資格があるのか?答えを出してくれるのが西黒尾根の登山だと、僕は思っている。
登山口
今回の目的は、登山感覚のリハビリと、大腿四頭筋(太ももの前にある筋群)のトレーニング。サイクリングは、大臀筋とハムストリングは鍛えられるのだが、四頭筋の負荷はあまり無い。立ち漕ぎとか、スプリントすれば話は別だが…
白毛門、朝日岳方面
登山、特に降りは、四頭筋を効率よく鍛えられるのだ。段差を降りて、グッて太腿で堪えるでしょ?あれヨ
ラクダのコルから上部には着雪
一般登山者の僕が、谷川岳登山で一番難しいと思うのが初冬。

もちろん…登山として考えると、厳冬期がもっとも困難であることは間違いない。でも、その時期は「一般登山者」は立ち入りができない。

僕らが立ち入りを許される、厳冬期を除く残雪期から初冬までで考えると、初冬の今が一番ハイリスクだと思っている。
トマミミに突き上げる

残雪期は足元が安定しているし、その時期に入る登山者はクランポンやアックス、ヘルメットとかちゃんと装備しているから無問題。

日光白根、皇海山の遠望

春先は雪解け水で水場が枯れる心配もないし、陽は長いし、気温も下がらないから無問題。
西黒の懺悔岩
盛夏は…一昔前はもっとも安全だったんだけど、最近は変わってきた。

谷川連峰は、最高峰である茂倉岳ですら2,000mに届いていない、それぐらいこのエリアは標高が低いのだ。標高が低いと残雪が早く消え、水場は枯れる。

標高が低いと暑いので、熱中症のリスクが高まる。
ガスの向こうにトマ耳
秋は…イイ時期なんだけれど、ひとつ間違えたら冬になるリスクがある。
そして、そのリスク…「軽いハイキングのつもりだったら冬山」…に、備えていない人突っ込みがちである、それが最大のリスクなんだ。
肩の広場に出ると道標
初冬のリスクは降雪。
主脈への縦走路と俎嵒
下界は秋晴れでポカポカ陽気。
そんな時期には、冬山装備(アックス・クランポン・ビバークシェルター)万全で入山する人ってあんまりいない。

足元だって、スニーカーとか、トレランシューズの人もいる。

着雪している斜面は、キックステップでジリジリと前進するしかないわけだけど、それができる冬靴は重いので人気がない。

そんでもって雪が着いた稜線に突っ込んで、足を滑らせて、↓こんなツルッツルの岩盤に着地したら、はいそれまでよ。
氷河跡の滑り台
下降点

ロープウェイから天神尾根経由で谷川岳往復と、ボトムから西黒尾根往復の違いは、鎖場の通過かな。

登りならまだイイ。谷川連邦エリアの登山道整備は行き届いているし、鎖とか、手すりトラロープとかの手入れもちゃんとしている。

ただ…ここから墜ちたらヤバいよねってところで、鎖もロープも無い箇所はいくつもある。
登りでは問題ないんだけれどね。

そうしたところを、危険なシーズンに登っているのだ。

そんな自覚を、自分が見失っていないかどうか?それをチェックするために、ボクは定期定期に西黒尾根を登っている。
ログはこんな感じ

西黒尾根そのものがストラバでセグメントになっていたのを発見。記録を見ると…まぁなんとか体力の維持はできているようで一安心でした。