どれくらい前だったろうか、日光白根山の山頂直下から滑降できるって知ったのは。
春から秋にかけて、何度も通った日光白根山。その東面に落ちるルンゼ…岩溝をそのまま滑りおりると五色沼に出る。考えただけで…かっちょいい!
オレが
そこは、本来は山スキーのルートである。スキーの機動力があってこそ、楽しめるルート。ヘッポコBCボーダーのボクにはちょっと敷居が高い印象。
まだ死にたくないので、チャレンジングなルートに入る時、ボクは何度も下見をする。
そんなわけで、何回も、一人で、そして滑ってみたいと言ってくれたユーヤと、
日光白根へ偵察山行に行っていた。
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雪は充分 |
このルートの攻略には、いくつか大事なポイントがある。
まずは十分な積雪量。左右を岩壁に挟まれたルンゼ。そこにドロップしたら、エスケープルートは無い。途中で雪が切れてたりしたら、そこで行き詰まる。
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無事を祈ります |
そして寒気。
側壁は切り立っていて、風化した脆い火成岩でできている。
小さなものから大きなものまで、崩れそうな岩だらけ。
雪と氷で覆われていれば安定しているのだけれど、雪解けが進むと落石・落氷の攻撃にさらされる…はず。
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地獄ナギが見える |
寒気が大事な理由はもうひとつある。
このルート上には、何箇所も樹林帯や低木帯の通過がある。そこは雪が緩んでくると、踏み抜き地獄になりがちだ。ブレーカブルクラストの踏み抜き地獄とか、めまいがするくらいにきついから勘弁。
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地獄ナギのトラバース |
雪がたくさんあって、よく冷え込んで…雪崩のリスクが無い…というのは基本アイスバーンを狙うということ。
ということで、最後のポイントは滑落リスクの管理。
それはまぁ…シビアコンディションを想定した板を選択すること。エッジをしっかり研いでおくこと。ハードパックに強い山岳用のスノーシューを使うこと。そんな感じ?
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アイスバーンに積雪2センチ |
ボクが選んだのは、メインボードの Bataleon Thunder ではなく… Rossignol の Sushi
144cmで短いので、樹林帯の通過で背負ったボードが引っかかることが少ないし、軽い。
こんだけ短いのにサスガのロシニョール、エッジが良く効く。
唯一の欠点は、絶対的な浮力が足りないのと、60km を超えたスピードでの安定感…
欠点二つあったネ…
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まもなく森林限界 |
ま今日の斜面はガリンガリンに凍ってると思うので、浮力なくても無問題。
そして、ヘッポコなボクは慎重に滑るので、スピードなんか出さないから大丈夫、一人だし。
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山頂の肩に出る |
そう、頼りにしていたユーヤが、今シーズンはどうしてもタイミングが合わずに来れない。
雪が多い今シーズン、チャンスを見送るのはどうしても惜しいので、ソロで入ったのだ。
老境の身…いつまで身体動くかわからんし、いつお迎えが来るかも知らんしな |
上州武尊方面 |
森林限界を超えて山頂稜線に出ると、そこには雪が無い。
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風の通り道、向こうは足尾 |
登山者の人と、先になり後になりしながら歩く。
ボードを背負ってるので、何人かは「どこ滑るんですか?」と、不思議そうに尋ねてくる。
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蒼い空 |
午後から天気崩れる予報だけれど、今の所は快晴。
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右の台地上に山頂 |
UFO基地も雪の下。旧噴火口から火口壁を上り、溶岩が積み重なった山頂の奥宮に着いた。
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奥宮 |
先に着いていた登山者に、シャッターを押してもらう。
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エビの尻尾 |
標識のエビの尻尾や、岩を覆ったベルグラの状態を観察する。
朝から暖気が入ってきていないし、日射もわずかなので溶けている気配は無い。
落石の恐れはないけれど、氷化したしたハードバーンが待っていそうだ。
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山頂標識はパス |
奥宮からもう少し上がると、山としての山頂。
そこはもう何度となく登っているのでパスして、ドロップポイントへ移動する。
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ダイレクトドロップ…はパス |
山頂からダイレクトに落ち込んでいる、広めのシュートは、一応のぞいてみたけどヤメた。だってこれだもん。
入り口からちょい先は、すこーし吹き寄せられた新雪が積もってる。でも、下地との密着程度や、弱層チェックもせずに入るのはイヤだ。足元が流れて滑落したら、その先は間違いなくアイスバーンの斜面が待っているのだから。
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こんなん無理っす |
北東に少し降り、コルからルンゼを覗き込む。入り口は40度を超える急斜面だが、その先は斜度が緩む。
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ルンゼ上部と男体山 |
見た目美味しそうな斜面だけれど、ね。
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正面の尾根乗り越えて左が北東ルンゼ |
北東ルンゼと中央ルンゼを分ける、分岐が目の前に見える。
バインをしっかり締めて、ヘルメットの顎紐を再度確認してドロップ。
最初数メートルは、アイスバーンの上に10〜20cmの新雪。何度か強くエッジで蹴飛ばして、安定を見るたところ、大丈夫そうだ。
というより、マジでガリガリのアイスバーン。滑落停止用に、アックスが欲しくなる。
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パウパウ終了ここからアイスバーン |
3mくらい降りたら、吹き溜まりが終わり、アイスバーンの斜面が始まる。
そこから分岐点までは、ウネるような氷の斜面。木の葉多めで下る。
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分岐点から上を振り返る |
北東ルンゼ(僕は過去に、ここを東面ダイレクトと呼んでいた)との分岐点まで来た。
北東ルンゼのほうが斜度があるので、今日はそっちは危ない。そう考えて、中央ルンゼを選択してさらに下る。
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ルンゼ分岐点 |
というより、この分岐の雪壁が硬すぎて、ツボ足では乗り越えられそうに無い。そこまでして北東ルンゼに行くよりも、スタンダードな中央ルンゼで良しとしましょうかね。ソロだし…
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この雪壁裏が北東ルンゼ |
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側壁は凍っている |
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中央ルンゼ下部 |
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ベルクシュルンド |
側壁には大きなシュルンドが開いている。
積雪量が多く、よく冷えているせいで隙間は無いので、中に落ち込むリスクはあまりない。ただ、落ち込んでどっかぶつけたりしたらやばいので、滑落しないように慎重に下る。
滑走の醍醐味…は…まったくないw
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側壁 |
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まもなく出口 |
ルンゼの出口に、当てこんだら楽しそうな壁がある。
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ナチュラルクオーターパイプ? |
裏側がどうなってるかわからないので、距離を確保してゆっくり下る。
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タイトツリー |
途中で見上げると、北東ルンゼが樹林の向こうに見えてきた。
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北東ルンゼ出口 |
ここまで、想定していた時間を少し過ぎている。
戻る距離を短くできるように、トラバース気味に樹林帯を下り五色沼へ出る。
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トラバース |
斜度が落ちてきて、浮力に劣るSushiは沈む。
2〜3センチのブレーカブルクラスト。その下は粉雪というか、グラニュー糖のような氷の粒。
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五色沼 |
クラスト踏み抜くと、シューを引き抜くのが面倒くさい。そんなラッセルが続く。
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北東ルンゼ |
弥陀が池への登り返しは樹林帯。粉雪が残っている。
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樹林帯は新雪15cm |
粉雪をラッセルして体重をかけると、クラストが割れる。なにこれw
うんざりしながら進んで、ようやく弥陀が池。計画より1時間程度遅れている。
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弥陀が池 |
弥陀が池を過ぎて、コルを超えると夏道登山道が通る細くて急な沢筋。ここの雪は柔らかくて、結局ここが一番滑って楽しかった。あっという間に終わったけどw
沢をボトムまで落として、スノーシューにスイッチ。スキーヤーズ・レフトに進路を変え、等高線に沿って丸沼高原へと戻る。
途中何箇所か滑れそうなところもあったけれど、トレースを潰してしまうと明日登る人が可哀想。そしてここで怪我をすると、下山に難儀するの。時間はかかっても確実な、スノーシュー下山と割り切って淡々と進む。
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御礼 |
こんな遠かったかな?そう何度も思いつつ、スキー場に戻ってきた。
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帰ってきたでよ |
下りゴンドラの最終に間に合った。
滑って下れるので、下り乗車は関係ないのだけれど、下山の時間が遅くなると心配かけるのでよかった。思ったよりも時間はかかったけれどね。
何度も、「2度と来ない」そう思ったけれど…
自分で登りたいと思って
自分で調べて
自分で偵察参考して計画して
自力で実行して
ほぼほぼ想定通りに無事に帰ってきた
間違いなく、今シーズンのというか、僕のBC経験の中で一生忘れられない山行になりました。
そう、僕のBCは…
スキーやスノーボードを道具として使っている、雪山登山なんだな。
滑りが楽しければ言うことないけど、僕は登山をしているんだよ。
うまく言えないけれど、そんなことを考えていた。
今回一緒に行けなかったユーヤが、行ってみたいと言ったら…
もう一回くらいは行ってもいいかな…何じゃそりゃ?w