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2023年9月27日水曜日

学生寮の話 (四季を感じて・夏)

「学生寮の話(世間との闘い)」でちらっと書いたのだけれど、寮には空調設備が無かった。

僕が住んでいた学生寮は、硬派(死語)を気取っていた。

硬派であるとは、暑いとか寒いとかゴタゴタ言わずに、質実剛健、豪放無頼、人生適当を旨とするのである。

寒くて死ぬやつはいるが、暑くて死ぬやつはいない

帝国陸軍のような考えのもと、冷房は共用スペースのごく一部にしか無かった


いらすとや様よりお借りしました

そんな環境に住んでいると、季節の移ろいを肌身で感じるようになる。

学生寮は鉄筋コンクリート造りの4階建てだった。

住環境的にもっとも過酷だったのは4階だ。夏の日射に照らされて、屋上のコンクリートスラブは裸足で歩けないくらいに熱くなる。それが4階の天井になるわけだから、昼間はもちろん熱伝導で暑い。

夜になったら涼しいかというと、そんなことはない。夜風が一番通るのは確かに4階だ。けれども、そもそもコンクリートは蓄熱性に優れている。昼間たっぷり太陽に炙られて蓄熱した天井は、夜になるとジワジワジワジワ室内に向かって放熱する。

あれなぁ、天井一面に電気ストーブ埋め込まれてるようなもんやで

4階住人はそんなふうにボヤキ、2階か3階の部屋に避難してタムロするのだ。

1階はどうかというと、日射の影響は少ないが、そこは虫地獄。僕らの北寮と南寮の間には緑豊かな中庭があり、そこには数多の昆虫類と、それを狙う両生類、爬虫類の皆々様が生息していた。

寮の窓には網戸が付いていなかった。いや、付いていたのかもしれないが、きちんとメンテナンスされて機能を果たしている網戸はほぼ存在していなかった。

1階の部屋でタムロして飲む時は、横に置いてある蚊取り線香の火で、お気に入りのトランクスに穴を開けないように気を付ける必要があったものだ。寮生どうしすれ違う時、金鳥のうずまきの臭いがすると、だいたい1階の学生だった。

開放的な1階の窓から藪蚊が入ってくる、 プーーーん
藪蚊を追いかけてカエルが入ってくる、 ピョーン
カエルを追いかけてトカゲが入ってくる、 サワサワ
トカゲを追いかけて蛇が入ってくる、 ニョロニョロ

そんな食物連鎖のピラミッド構造を、ベッドから横目で見るだけで学べるのが1階だった。

僕ら寮生は、地方出身者が多かった。田舎で生まれ育った寮生は虫には慣れているので、1階の虫地獄は基本無問題だった。しかし、一部関西都市圏出身者、大阪・神戸・奈良とか?にとって、1階はかなり過酷な環境だった筈だ。

あ、そうそう、中庭にはゴキちゃんも多数生息していた。

ある友人は、机の上にうっかり食べ物を置いて寝てしまった。翌朝、ふと見たら…机の上が茶色くワサワサ波打っていて、良くみたらそれが小さめのゴキちゃんだった…

別の友人は、ベッドで飯を食いながら寝落ちした。ふと気がついたら枕やシーツにこぼれ落ちた食べ物のカスを狙って、ヤツラが目の前10cmで集結しているのを見てしまった。

あれは相当のトラウマだとぼやく友人に、横から誰かが慰めるように言う。

あいつら基本落ち葉しか食うてへんから、 
街のゴキちゃんちごうて清潔なんやで

まぁでもだからと言って、その誰かが積極的に1階の部屋を選ぶかと言ったらそれは無いのだが。4階建の学生寮でもっとも人気だったのは2階、次が3階であったのはそんな理由だった。