このブログを検索

2021年9月30日木曜日

バイクメンテナンス トルク管理(その1)

この間、SNSで友人のポスト見ていてふと思った。

スポーツバイクのメンテナンスで、(締結)トルク管理が必要ってこと、あんまり知られていないのだろうか?

スポーツバイクを持っていると、そこここのボルトに、6Nm とか 7Nmとか マークがあることに気がつくだろう。
矢印の先が指定トルク値(注1)

これが、(最大)指定トルクのマークだ。単位はニュートンメートル。

「ネジとかボルトは、直径と素材によって締め付けトルクが設定されている」のだ。これを守らないと、危険だし、バイクを壊してしまうこともある。

いわゆるママチャリは話が違う。ママチャリは、誰がどんな風に乗るのかよくわからない。適切なメンテナンスをされるか、そもそも、手入れすらされないかもしれない。だから、雑に使われることを前提に、余裕を持たせた強度と耐久性を持たせてある。

ボルトも、基本的に「ギュッと」締めるくらいの感覚で大丈夫。なぜなら、多少強く締め付けても大丈夫なくらいの強度を持たせてあるから。その代わり…ママチャリは重い。

スポーツバイク(自転車)は話が違う。性能を高めるために、余裕を削り、その代わりサイクリストがメンテナンスを学んで、適切に管理することが求められる。

言ってみれば、乗りっぱなしでいいカローラなのか。常時気配りとメンテナンスが必要な、イタリアのスポーツカーなのかという話。

で、カーボンフレームとカーボンフォークのレーシングバイクは、言ってみればレーシングカー。一定距離を走るごとにピットインして、プロショップでオーバーホールする。もしくは、自分で丁寧にチェックしなければ、本来の性能は発揮できないどころか、危険ですらある。

前に紹介したメンテナンスマニュアルの appendix を見てみよう。
僕のバイブル
メンテナンスマニュアルで、どれだけのページが割かれているかで、その項目の重要度がある程度はわかる。
435-446ページがトルク一覧表

トルク一覧表は、10ページ以上が割かれている。それぐらいに、重要な情報であるということ。

一番最初はこれ「鋼鉄製のボルトを、アルミニウム製の部品にねじ止めするときの締結トルク」一覧表。
M(x) bolt は、直径(x)mmのボルトと言う意味 

厳密なことを言うと、ボルトもアルミニウムもいろいろな素材がある。だけど、自転車で使われるボルトはほとんどの場合はハイテンションスチール(鋼鉄)かステンレス。アルミも6xxx番台とか、7xxx番台とかの、昔風に言うとジュラルミン的な高強度合金なので、まぁ、気にしないでもいい。

くどいけれど、これはあくまでも「最大値」なので、どんな時でもこの強さで締めろというわけでは無い。

さて…ここまで読んで、疑問に思わないだろうか?

どうやったら「俺が今、このボルトを締め付けている力」がわかるのだろうか?

その、締め付けている強さがわかる工具を「トルクレンチ」と呼ぶ。本格的な物は、あらかじめ締め付ける目標トルクをセットしておく。

例えば、10Nm とかでセットして、ハンドルの指定の部分を持って、「反動をつけずに」じわっと押し込むと、「カチッ」とか、「コクン」とか、音と手応えで10Nmに達したことを教えてくれる。最近のモデルでは、デジタル表示でトルクを教えてくれて、指定数値になると電子音が鳴るようなものもある。

こうしたツールを適切に使用することで、作業にムラがなくなって、安全になる。

「このボルトをしっかり締めなさい」

という説明では、客観的な指標にならない。

「長さ20cmのハンドルの端を、4本の指で掴み、肘から先の筋肉で締めなさい」

これなら、ある程度の目安にはなるだろう。だが、人によって結果は異なる。

「20Nmで締めなさい」

これなら、トルクレンチを使えば、誰がやっても同じ結果になる。

だが、正直言って、一般的なサイクリストには、本格的なトルクレンチはあまりお勧めしない(注2)。

重整備はプロショップに任せるべきだと、僕は思う。

ただ、日常的に必要なメンテナンスとか、ポジション出し、ハンドルやサドルの高さや角度の修正くらいは、自分でやれるようになったほうがいい。

そして、こうした細かな部分のボルトは非常に繊細なものが多く、

締めすぎると壊れる

だから、小さいトルクの範囲で、目安が分かるものを一つ持っておけばいいだろう。例えばこんなの。
TOPEAK トピークのトルクレンチ
これは、締め付けると、レンチのシャフトがねじれる。そして、黄色のプラスチックパーツもそれにつれて動いていく。そして、どれだけよじれているかというのを、読み取りの針で確認することで、締め付けトルクがリアルタイムで理解できるのだ。

こうした簡易ツールは、往々にしてビット(レンチの先につけるパーツ)の精度が甘くて、なめやすかったりするのだけれど、これは非常に優秀。3~6mm のヘックスと、トルクスのビットが揃っていて、精度も硬度も非常に優れていて使いやすい。何よりも、手ごたえと、トルクをリアルタイムで確認できるのが良い。

で、こうしたツールを使って、マニュアルに出ている最大トルクを超えないように組み付けをしていけば良い。

サービスマニュアルが手に入るならば、そこを見れば適正トルクは書いてある。例に挙げたこのメンテナンスマニュアルにも、主だった物は記載がある。
サイドプル(リム)ブレーキ

このテーブルの下半分、1行目が非常に興味深い。

Caliper fixing bolt onto Trek, LeMond, or Klein carbon seatstays.          Min 6 Max 7 (Nm)

「後輪用のブレーキキャリパー本体を、TREK 他の、カーボンフレームのシートステイに取り付ける場合は、最低6Nm 最大7Nm のトルクで締め付けること」

カーボンフレームは軽量でしなやかで、強度が出せる。そのかわり、圧迫するような力を受けると、割れたり裂けたりしてしまう。リアのブレーキは、サドルのすぐ下から伸びているパイプの、指定されたポイントにボルトで締め付ける。このとき、パイプを前後から挟むのだ。

締め付けが弱ければ、ブレーキの固定が甘くて危険だけれども、締めすぎるとフレームが割れる可能性がある。その許容誤差は 1Nm…  そんなことが、この1行に表されている。

スポーツバイク初心者には、カーボンフレームのバイクはあまりお勧めできないと言われることがあるのだけれど、それはこうした事情も影響している。

許容誤差が1Nm というのは、トルクレンチがなければ管理できないレベルだと思っていい。プロのメカニックは別だけれども、一般人にとっては、4~7Nm の差というのは、非常に微妙で管理できないと考えて間違いでは無い。

なるほど!

と思ったならば、取り合えず、上に挙げたTOPEAKの簡易型で構わないので、トルクレンチを手に入れて使ってみることをお勧めする。

つづく

注1 6Nm と書いてある場合は、「最大」トルクが6Nm であって、これを超えてはならない。もし、止められるならば、4Nm でも 5Nm でも構わないということ。よっぽど体重が重いとか、ハードな競技者としてライドするので無い限り、最大トルクで締めることは無いはずだ。特にサドル周りの固定ボルトは締めすぎ厳禁なので要注意。ちなみに、範囲指定がある場合は、 3~6Nm といったサインになる。この場合は2Nm だと固定が甘くて危険という意味。

注2 本格的なトルクレンチは、非常に繊細なのだ。ハンドルを掴む位置によって、トルク数値が正確に測れない。反動をつけて使うとまったくあてにならない。そして、ホコリや水分、磁力などによって狂ってくるので、定期的に校正が必要になる。狂ったトルクレンチを使うくらいならば、ショップにお任せしたほうが間違いない。