ハブボディには、フロントと同様にシールドベアリングが圧入されている。違いは、フリーボディがついていること。 そのせいで、分解と清掃がちょっとだけ手間が増える。
ただ、昔のルーズボールベアリングみたいに、ベアリングを落としてしまって、泣きながら探し回るようなことはないのがありがたい(注1)。
まずは球押しを緩めて、ハブシャフトとフリーボディと一緒に引き抜く。
ここで注意しなければいけないのは、フリーのラチェット部分には専用グリスを使うこと。「フリーハブ・グリース」という、ちょう度のひくい、粘度の低い、つまりは柔らかいのを使う必要がある。
まずは球押しを緩めて、ハブシャフトとフリーボディと一緒に引き抜く。
フリーラチェットの摩耗と埃の汚れ |
シャフトそのものの汚れはなく、サビも見当たらない。
シャフトは綺麗で汚れもない |
さて…フリーボディのロックナットを緩めてシャフトから引き抜いてと…
ロックナットが固着していて回らない…
シャフトの両端に、スパナをハメてクイって回せば外れるのだけれど…よく見ると、ノン・ドライブサイドの、スパナを噛ませるところが…微妙にナメている。
実は、ここのロックナットは「逆ネジ」なのだ。
ははーん! ピンと来た。
前のオーナーは、逆ネジに気がつかなかったのかも?そして、緩めようとしたけど緩まないので、ぎゅっと締め込んでしまってドツボにハマったのか?
こんな風に締めちゃったナットは、慎重な扱いが必要だ。オーバートルクで締まってるので、オーバートルクで緩めないといけない。だが、オーバートルクをかけると、スパナが滑ったり、外れたりするリスクが高まる。スパナが滑ってナットの山を舐めると、取り返しがつかなくなる。
本来ならば、山が甘くなった片側は、万力でがっちり固定しておく。そして、山が生きている反対側にスパナをしっかり効かせて、慎重に緩めていくのだけれど…万力がない。
万力が欲しいなぁ |
仕方がないので、モンキーレンチを作業台に万力で固定。固着したロックナットには Wako's のルブを浸透させて慎重に…外れた!
アルミシャフトに、浅いネジピッチ、スパナのかかりが浅いロックナット。こうした設計は「決してオーバートルクで締めないでください」というサイン。3mm 以下のヘックスボルトや、アルミのナット・ボルトなども同様で、特に注意がなければ1~3Nm 程度のトルクで締める。もし、緩みが心配になる部分なら、中強度の緩みどめをつけるべき。
で、そんなパーツを緩めようとして、ダメな場合はよくマニュアルを見るべきだ。「逆ネジ」であった場合は、取り返しがつかなくなるから(注2)
ちょいサビ・汚れ |
フリーボディ内部のベアリングからは、わずかに赤錆汚れ。グリスはほぼ抜け切って、汚れを吸っている状態。まだゴリ感は出ていないので、ギリギリセーフなタイミングかな。
綺麗に清掃し、奥に入った汚れはパーツクリーナーで洗い流す。そして、ベアリングと、フリーボディの爪にはチタンスプレーを浸透させる。
清掃完了 |
グリスを溢れさせがなら組み付けるのはフロントと同じ。ここがグリス切れすると、洗車の時に水が入ってサビを呼ぶことになる。
むにゅっとなー |
専用グリス、右は汎用グリス |
ラチェットの爪が寝たり立ったりすることで、フリーハブは機能を発揮する。ペダルを漕いで時計回りにトルクがかかった時は駆動力を車輪に伝える。ペダルを逆回転させる、またはペダルをこがずに前進するとき、フリーは連結を解いて空転する。
これが、自転車に乗っていて空走状態の時に聞こえる「チーーーー」というラチェット音の正体だ。
固いグリスを入れてしまうと、爪が立ち上がってくる動きを邪魔してしまう。これが極端になると、空走状態から加速しようとペダルを踏み込んだ時が問題だ。ペダルを踏み込んだ時に、爪が起き上がらず、ラチェットに噛まず、ペダルをスカッと空振りする。こうなると、良くてキン◯マを強打、最悪は落車となる。
そして、爪とハブのラチェットはいつでも触れ合っているわけで、ここに異物が入ると途端に寿命が短くなる。そんなわけで徹底的に清掃して、汚れがつかないように注意しながらグリスを入れる。
清潔なヘラでグリスを入れていく |
フリーハブグリスは、柔らかいので、浸水防止効果は弱い。そこで、フリーボディをハブに押し込んで行って、パッキンがハブ体に入り込む直前で汎用グリスを封入してやる。
追っかけグリスで防水 |
フリーボディとハブが一体化すると、この追いグリスは、ほとんど表側にはみ出してきてしまう。実際のところ、これがどれだけ意味があるのかは微妙で、ほとんど自己満足の世界だろうね。まぁその、自己満足が素人メカニックの原動力なんだし、趣味でやってるのだから、危険を招かなければ好きにすればいいかな。
これぐらいの量があればシール効果は期待できる |
乗るのが楽しみだなぁ
注1 中学・高校時代にハブの分解清掃では散々痛い目にあった。教訓は、「芝生の上でやってはいけない(磁石で探さない限り発見不可能)」「砂利の上でやってはいけない(同じくw)」「アスファルトの上でやってはいけない(穴に入って見えなくなる)」「コンクリートのもいけない(弾んでどっかに跳んで行くw)」「薄暗いところでやってはいけない(論外w)」。ボールベアリングを落とした時の絶望感w
注2 自転車には、ポイントポイントで「逆ネジ」が使われている。ねじ込み式ボトムブラケット、ペダル、そして今回のようなハブシャフトのロックナット。自動車やモーターサイクルは、頑丈な鋼鉄で径の太いボルトを使って、ハイトルクで締め付けができる。パーツの重量が性能に及ぼす影響は少ないから。だから、軸とその周囲を回る回転体がどっち方向に回っているとかあんまり関係ない。ところが自転車の場合は、高いトルクでの締結ができない(ボトムブラケットで40Nm程度)。だから、そこと接触する回転体が緩み方向に回っていると、いつかはネジが緩んでしまう。で、回転体の締め付けナットは、ロックタイトを使うとか、逆ネジを活用することになる。