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2021年8月25日水曜日

闇を歩く (早立ち編)

暗闇の山中を歩くのは、危険だ。視界が限られ、危険に気づかず、仲間とはぐれて道に迷う。したがって、やってはいけない、というのが山の大原則。

だが、時と場合によっては、夜間行動をしなければいけないこともある。嫌でもそうせざるを得ないことがあるのなら、夜間行動はしないという原則を大事にしつつ、安全な状況で経験を積むことは無駄ではない。

そして、山を最大限に楽しもうとした時、あえて闇夜の山を歩くというオプションも浮かんでくる。

夜明けボーナス

夜の山を歩くなら、どうするべきかという話をしてみよう。

闇を歩くという時に、「早朝の暗闇を歩く」のと、「夕方の暗闇を歩く」のは大きく異なることを知っておくべきだ。

今回は、そもそも、なぜ夜明け前に歩くのか?ということについて書いてみよう。

残雪の土合駅から俎嵒を目指して早立ち

雷の回避 夏山の午後は、雷のリスクが高まる。「午後には大気の状態が不安定になります」そんな天気予報が出ている時には要注意。森林限界を超えた稜線上や、難路で雷につかまる危険は、可能な限り避けるべきだと思う。朝8時に出発して3時下山とするならば、朝4時に出発して昼に下山すれば、安全性は格段に高まるはずだ。

ロングハイク 行きたい山にルートを引いていると、テン場や小屋、水場の位置によって行程上どうしてもロングハイクになってしまう場合がある。こうした場合に、休憩時間を削るとか、普段より速く歩こうとしてはいけない。焦りは事故の元になるから、あくまでも普段通りの行動時間で計画するべき。そして、目的地への到着が遅くなるなら、その分早く出発すれば良い。

暑さ対策 夏の低山は酷暑との戦い。特に谷川連峰は2,000mを切る標高で猛烈に暑い。しかも、豪雪地帯と岩質のせいで森林限界が低いので日陰がない。そして水場もないので、熱暑に曝露される稜線上の行動はできるだけ控えたいし、可能ならば、急登は午前中に終わらせておきたい。

雪崩の回避 積雪期の登山は、雪崩や落石のリスクを考えなければならない。そこまでシビアな山でなくても、残雪期の雪渓登りとかでも、落石事故は起こりうる。そして、落石や雪崩のリスクが上がるのは、日射と気温の上昇で雪面が緩んだ時。つまり、朝の冷え込んだ時間帯のうちに、リスクの低い稜線上に上がっていることは、危険対策になる。

西黒尾根登山口

見逃せないのは、早立ちの場合「登り坂」でスタートするということだ。初日に早立ちする場合は、入山口からの登坂から一日が始まる。縦走の場合はテン場か小屋で泊まるのだけれど、テン場も小屋もほとんどの場合は鞍部にある。鞍部は水場に近くて、風を避けられるからだ。つまり、翌朝の出発後は上り坂からスタートとなる(注1)。

北岳から農鳥に向けて歩く

山をやっているとわかると思うけれど、道迷いを起こしやすいのは下り坂。そして、膝や足首をひねったり転倒の事故が多いのも下り坂。

早立ちで、夜明け前の闇を歩く場合は上り坂。そして、なんらかの事情で行動時間が計画をオーバーして、夕闇が迫る状況で歩くのは…致命的なトラブルに遭いやすい下り坂ということになる。

間ノ岳で夜明けを待つ

早立ちは、心に余裕がある。目的が気象・天候上のリスクを避けたり、時間的な余裕を生み出したりすることにあり、すべては計画と検討を元に決まっている。

そもそも、歩いているうちにだんだんと周囲が薄明るくなってくる。これからどんどん闇が薄くなって来るのだ、そして、東の山の端から朝日がのぼるということがはっきりとしている。そんな心の余裕があるから、闇を歩くことは怖さよりも、楽しさになる。

普段、朝7時ごろにスタートしているなら、試しに4時ごろ歩き始めてみたらどうでしょうか。

つづく

注1 稜線上に設けられた小屋もあるが、これらは飲料水をポンプアップしたり、天水(雨水)のタンクを設けたりといった努力をしながら維持をしている。