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2021年8月20日金曜日

山力(ヤマヂカラ) その1 アオちゃん

タカさんはクスクス笑いながら続けた。

アオちゃんみたいな奴もいますからね…
だね… 
ジブッチもかなり偏ってますよね…
笑… 
ヨーイチなんか、普通は、雪山はダメだよね 
笑笑…

僕たちは、雪山宴会部でゲストメンバーを受け入れするときの条件について話をしていた。

僕とアオちゃん

雪山宴会部は、名前の通り雪山で宴会して泊まって…周囲の山に登って滑るって遊びをしていた。新しい仲間を誘いたくなるのだけれど、雪山だからリスクはある。ゲストとして招いた人が負うリスクももちろんなんだけど、一緒に行動する僕らのリスクもある。

そう考えると、あまりにもリスク管理が難しい人は誘えないよねということになり、では、誘えるかどうかを、どうやって線を引くかということになった。

ジブッチ、タカさん、アオちゃん

で、ある登山者が持っている能力を「山力」と呼ぶことにしよう。僕とタカさんは雪山宴会部が求める山力は、「滑走技術」「体力」「生活技術」の3つであると考えた。ところが、そこから具体的な基準に落とし込むところで、話が変なほうに進み始める。

まず、スキーでもボードでもいいけど、安全に滑れる技術は必要だよね。
ですね、カッコはどうでもいいですけどね。 
荷物重いからちょっと独特なんだよね 。
ゲレンデではありえないコンディションでも滑りますしね。 
そう、それに、危険地帯を素早く抜ける必要があるから、モタモタされると困るよね。

でも…アオちゃんみたいな奴もいますからね…

以前 HAPPINESS AOKI という投稿で書いたけれど、部員のアオちゃんのことを話すとおかしなことになる。彼はスキーは下手…というか、初心者に毛が生えたくらいだった。

でも、部員としてはまったく問題なく行動していた。

そういえば、アオちゃんって、滑りは下手だけどモタモタはしないんだよね。
ですね、シールの取り扱いとか、ハイクは上手だと思います。 
そうだね、自分が遅れることを知っていて、行動を組み立ててるよね。 
ですです。行動中に、次の休憩で何をするか考えてますね。 
で、結果的に周囲を待たせない、というかむしろ先行して偵察とかしてくれる。 

で、まぁ、アオちゃんみたいに、滑走技術だけで見たらギリギリって奴を、単純に「来ないでね」って言ってしまうのは勿体無いってことになる。

で、じゃぁ、彼の山力のベースはなんなのか、ということだけれど、それは、ワンゲルの部長として培った、溢れ出る体力と、山の生活技術。そして何よりも、彼の人柄なんじゃないかなという話になった。

つまり、滑りが下手でも、怪我しないように滑れること。ガッツがあって(⇦昭和感)、山に慣れていて、人に愛される存在であれば、まぁいいかということになった。

雪洞で雪を溶かして水造るじゃん。あれ、冬山の生活技術出るよね。(注1)
アオちゃん、スーッと来て、コッヘルがひっくり返らないように押さえてくれるんですよね。
そう、ジブッチはまったく気にせずにビール飲んでるけどね。
wwwwwwwww
あ、そうそう、アオちゃん、コッヘルの底に結露出ると、丁寧に拭うんですよね。
そんなところにも、生活技術というか人柄が出るよね。
ジブッチはしないですけどね。

そんなアオちゃんは、山を引退して久しい。

つづく

注1 雪山では雪や氷を溶かせば水が確保できる。しかし、効率よく溶かさないと燃料が足りなくなる。まず、重要なのは「呼び水」。最初に水を入れて、それをお湯にしながら、雪や氷を足していく。雪だけを入れて一気に加熱すると、最悪の場合コッヘルが壊れてしまう。そして、加熱をしていくと、鍋が結露で濡れて、汗をかいたようになる。この結露をこまめに拭き取ってやることで、熱が入りやすくなり、時間短縮と燃料の節約につながる、と言われている。

2021年8月26日木曜日

山力(ヤマヂカラ) その3 カメちゃん

*写真と本文は関係ありません*

少し上の斜面で転んだカメちゃんが、クラスト斜面を横滑りしながら僕の脇まで降りて来てこう言った。

部長、足やっちゃったかも…
え?マジ?
はい…折れた、と、思います、すみません。
足のどこだ?どんな感じで折れた?
足首のちょっと上です。転んだら、スキー取られて… 
ブーツの中で「バシッ」って音がしました。

僕らは草津芳ヶ平でBC合宿をして、下山を始めたところだった。最終日もハイクアップして滑ろうと思っていたのだけれど、あいにくこのシーズンは暖冬で小雪。しかも数日かけて緩んだ雪面がこの日は寒気が入って、2cmくらいのブレーカブルクラストになっていた。

で、こんな状態では滑ってもつまらないだろうということで、とっとと下山して温泉でも行こうかということになった。
富士宮口五号目でハイクの準備

ヒュッテのご夫婦や犬たちに見送られて、夏道を降り始めた。そして5分ほど降ってトラバースを過ぎ、傾斜が増してちょっと広くなった斜面の途中でカメちゃんが転んだ。

至仏山に向かう

ここは、ここ数日の間に下山した人たちのシュプールが、そのままの形で凍りついていた。表面はガリンガリンのボコンボコンで、板をズラすことが難しい。で、仕方なしにプルークで減速するのだけれども、テールでクラストを踏み抜くと板がロックされて、前に発射されてもんどり打って転ぶという、地獄のような悪雪だった。

カメちゃんアオちゃん

カメちゃんの顔は心なしか青白い。部員がみんな周囲に集まる。

ブーツ外して圧迫固定するか? 
交代で背負ってヒュッテまで戻るか?(注1)
いや、ブーツ外したら2度と履けないと思います、降ります。
とりあえず荷物降ろそうか、降るにしても戻るにしても、空身でなければ無理だろう。
ありがとうございます、お願いします。

僕らはカメちゃんの荷物をそれぞれに振り分けた。合宿の最終日だったので、バックパックには多少の余裕ができていたのが不幸中の幸いだった。そして、空になったカメちゃんのバックパックは、僕が体の前に横向きにして抱えた(注2)。

Blackdiamond Megamid を張る

カメちゃんは僕らの心配そうな視線に気がついた。

休んでいると動けなくなりそうなので、降ります。
解った、じゃぁ、他のメンバーでデラ(注3)かけて、整地しながら降る。その後をついて来てくれ。
わかりました、ありがとうございます。

で、僕が先頭になって、プルークからデラパージュ、プルークで向きを変えてデラパージュと、整地を試みながら降る。表面の凸凹はほとんど削れないのだけれど、一人、二人、三人と同じようにデラがけしながら進むと多少は滑りやすい雪面が後に残る。

骨折したほうの足首に力を入れられないカメちゃんは、ずっと同じ方向を向いたままの横滑り下山になる。疲れて息が上がると少し休み、夏道が平坦になったり少し上り坂になると、他の部員がすっと近づいて歩行を助ける。

下山路を半分くらい降ったところで、ようやくブレーカブルクラストも緩んで、そこからは重いけれども、デラが良くかかるザラメ斜面になっていた。
湯河原幕岩でアナザガールを登るカメちゃん

その先記憶がちょっと飛んでいて、次に覚えているのは医務室からケンケンしながら出てくるカメちゃんの姿。ゲレンデボトムにパトロール小屋があり、その隣に医務室があった。そこで応急処置をしてもらって、カメちゃんは足首をシーネ固定してもらった。

みんなは車に戻って、すぐに最寄りの病院に行けるように撤収準備をしている。で、医務室の外には、僕ともう一人の部員がカメちゃんに肩を貸せるように待っていた。

なんだって?
多分、いや、ほぼ間違いなく折れてるそうです。
ブーツの中だったからまだ良かったけど、1箇所か2箇所か折れてるみたいです。
そうか…良く頑張ったね。
次にこんなことになったら、自力下山せずに助けを呼ぶようにと言われました。
次回は…無いようにしたいね
ですねw

カメちゃんの口から、クスッと笑い声が出て、僕らは下山できたことに感謝した。

僕は思う、やっぱりあの時、僕はリーダーとして、自力下山を止めるべきだったんだろう。

ただ、「山力」とは、そもそもなんだろうか?とも考える。

カメちゃんは自分の怪我の状態と、天候や雪の状態を冷静に判断して、自力下山を選択した。そして、部員のサポートを得ながらそれを成し遂げたし、部員のみんなは何も言われなくても、カメちゃんの下山をサポートした。

山力とは結局のところ、自力で登山を完結できる力なんじゃないかな。そう考えると、カメちゃんの山力ってスゲーなと思う。

あれから15年と少し経ったけど、カメちゃんは相変わらずBCテレマークを続けている。東北の山で、楽しそうに登って滑っている姿をSNSで見る。

で、そんな投稿見ると、カメちゃんが「降ります」と言った横顔を思い出す。引き締まって、血の気の引いた唇と、青白い頬を思い出して、つい口に出すのだ。

やっぱスゲーよ、カメちゃん…

つづく

注1 本来なら、ヒュッテに戻って荷運び用のモービルかヘリを頼むのがベストだったと思う。この時は降り切ることができたけれど、僕の判断は間違えていたと今でも思う。

注2 怪我人がもう一人出たら、自力下山がさらに困難になっただろう。不要不急の荷物はマーキングしてデポし、全員が最低限の負荷で降るべきだったか?と思う。

注3 デラパージュ(横滑り)は、斜面に対して横向きになり、板を横に滑らせていく技術。板のエッジが雪面を均しながら進むことができる。

2021年8月22日日曜日

山力(ヤマヂカラ) その2 ジブッチ

アオちゃんが正統派の山屋だとすると、ジブッチはかなり偏っている。

ジブッチ、敵も多い

雪山宴会部が立ち上がってすぐ、ジブッチがBC合宿に参加したいと言ってきた。

スキー?楽勝です。山形生まれの山形育ちですよ。
雪国育ちだからって、スキー滑れるとは限らないだろう?
いや、部長、それは中途半端な雪国だったらそうでしょうね。

違うのか?

俺の故郷はただ豪雪なだけじゃなくて、ものすごい寒いんですよ。スキーできないと通学もできないし、下手したら通学路で凍死しますからね。

…そもそも、ジブッチ登山やったことあったっけ?
何言ってるんですか〜山形の山猿ですよ、ボクぁ!毎日が登山ですよ。エブリディ・クライミング、エブリディ・サバイバルって感じでしたから。

で、まぁ…一抹の不安を抱きながらOKした。

合宿のテン場へは、ロープウェイの山頂駅が入山口になる。スタートして最初はほぼ平坦なのだが、ジブッチは明らかに遅れ始めた。

ジブッチ、大丈夫か?どこか悪いのか?
何言ってるんですか部長、汗をかかないように歩いてるんですよ。
????
八甲田山死の彷徨って知ってますよね?
お、おう。 
あれも結局ですね、行動中にかいた汗が原因で、疲労凍死に至るわけですよ。なので僕は汗をかかないように行動することを心がけているんです。
……それにしても遅すぎないか?みんな待ってるぞ?
部長も割とせっかちなんですね、早死にしますよ?

お分かりだろうか?

どちらかといえば体力不足で、雪山登山の経験もほとんど無い彼に、「上から目線の、BCアドバイス」を賜る時のイラつき感。

こうやって、彼はいろいろなところに敵を作ってきた。

アオちゃん、ジブッチ、タカさん@立山

肝心の滑走技術はどうか?

ジブッチはテレマークスキーの破壊者だった。
道具は細板に革靴という、正統派テレマークなのだ。しかし、滑走はアルペンターン一筋。

ジブッチさ、たまにはテレマークターンしてみたら?
踵上げると転ぶんですよね。だから上げなくていいかなって…
テレマークの意味ないじゃん!
いや〜道具が安いからテレマークにしたんですよ(注1)。
別にテレマークスタイルに思い入れもまったくないですし… 
軽いし、歩きやすいし、安いからって感じです。

お分かりだろうか?

それなりに練習して、やっとテレマークが滑れるようになった。そんな過程を経て、テレマークという文化に対してそれなりにリスペクトを抱いている僕の前で、

いや、僕、まったく思い入れないです。
安いからこれにしました〜!

と、言い切られる時のイラつき感

彼の滑りはものすごいユニークで、全体重を踵に乗せて滑るのだ。新雪に行くと、体重がかからない先の半分、ブーツのつま先からスキートップまでは、ずっと雪の上に突き出したまま滑っていく。

ジブッチさ、カカト荷重も極端過ぎないか?スキーの後ろ半分しか使ってないじゃん。
部長、そうなんですよ。今度軽量化のために、前半分切っちゃおうかなって思ってるんですよね。どうせ使ってないし。 
スキートップが無かったらラッセルできないだろう? 

彼はニヤリと笑って言う。

 先頭ラッセルできない理由になりますね!

つまり、ジブッチは「滑走技術」「体力」「生活技術」の山力3要素は、落第点ギリギリ。でも、不思議と、彼の参加はみんなウエルカムで、気がつくと一緒に居た。ジブッチについて、みんなはこう思っているんじゃないかな?ということを、創作交えて書くとこんな感じ。

気が利かないくせして、一番美味しいところにささっと居ますよね。
そう、鍋の準備とかしないのに、不思議とベストポジションでブキ持ってる(注2)。
ハイク遅れるのに、絶好のドロップインポジションで先頭に居たりとか。
そんで滑ると、まっさらの斜面ですっ転んでメタメタにしちゃうとか。

でも、凄い楽しそうなんですよね。誰よりも楽しそうw
憎めないよね、カチンと来る時もあるけどw
カチンと来るんだけど、よく考えてみると、まともなこと言ってるんですよねw 
嘘が言えないんだよね、思ったことがそのまま出ちゃうw

僕は接客業をしていたことがあるので、愛想の良さとか、丁寧な対応とかは、どちらかと言えば得意だ。しかし、正直言うと、本質的に、僕は人付き合いが下手だ。

そして、苦手な僕でも人当たり良くできるということは…それは、あくまでも訓練で身につけた技術であって、僕の本質ではない。

僕だけじゃなく誰でも、大人になるにつれて、「人当たりの良さという仮面」をかぶって生きていく。で、仮面の存在には、みんな気がついている。

嵐の夜にテントの中で酒を一緒に飲んでいると、だんだんと仮面が取れていく。そして、素顔が現れた時に、それぞれの魅力とか欠点とかが露わになる。

そして、ジブッチが偏っているように見えるのは、みんなが仮面をかぶっている中で、彼だけが素顔でいるからということに気がつくのだ。

それはイヤ、それは大好き!と、裏表なく正直に口に出し、合宿になるとあいつが一番楽しそうに過ごす。

「やっぱりジブッチがいないとつまらない」ということが、彼が部員であり続けた理由なのだろうね、山力は置いといて。

部長、モタモタしてると置いていきますよ!

榛名黒岩南面最上部、下降の準備

そんなジブッチは、関西に移住し、スキーを引退して久しい。

雪山はやっていないけれども、クライミングはずっと続けている。今では結構な高難度とか、ヨセミテのビッグウォール遠征とかも楽しんでいるようだ。

つづく

注1 当時のテレマークギアは安価だった。ブーツが3〜5万円、板もそれくらい。バインディングなんて3ピンならば8,000円くらいで買えた。僕も正直言って、ギアが安いからテレマークスキーに移行したってのも、否めない事実ではある。

注2 山屋は食事の道具、箸とかスプーンのことを「ブキ」と呼ぶ。

追記: うっかり、ジブッチが秋田出身って書いちゃったけど、実際は山形だったので訂正しました。秋田はハタッキーだったね…