天狗岳からタルワキのコルに下って縦走の前半が終わる。ここから相馬岳までは、割と平和な登り返し。振り返ると、天狗岳の東面が見える。
| 天狗岳を振り返る |
木の根や灌木など手がかり足掛かりが豊富なので、さほど苦労せずに山頂へ到着。
| 相馬岳 |
山頂でタルワキから登ってきたというカップルの登山者に出会った。ここまではちょっと物足りなかったと言い、どうしようか相談しながらこちらを見た。迂闊なことは絶対に言えないので、タルワキまで戻ってから天狗岳ピストンが無難であることを伝える。
それ以上は言えないよね…そして、天狗岳から妙義神社までは難路なので、先には進まないほうがいいと言っておいた。
| これから行く金洞山山塊 |
相馬岳から先は再び高度を大きく下げる。木の根や岩角を支えに下降するのだが、ここはスリップに要注意。妙義山は標高が低く、岩場以外は雑木や草の茂みで覆われる低山だ。低山独特の落ち葉や赤土で覆われた岩場は、うっかり足を置くといきなりズルッと来て肝が冷える。
| ホッキリへの嫌な下り |
いい加減うんざりする下降が終わると、茨尾根が始まりホッキリ(堀切)のコルに着く。
| 休憩をとり行動食を摂る |
後ろからハイカーが近づいてきて、追い越して行った。岩慣れした人のようで、トラバースも安定していて速い。
| 鷹戻しの頭が近くなる |
茨尾根もようやく終わり、岩壁の基部からいよいよ鷹戻しが始まる。
| 2連のハシゴ |
国内一般登山道最難関とも言われる表妙義稜線縦走路、中でも核心とされるのがこの鷹戻し(一部では「鷹返し」とも)。
ただ…ハシゴが設置されていたりよく整備されており、ルートも分かりやすい。鎖の流れに沿って、しっかりと足場に体重をかけて登れば良い。
| 鎖場の抜け口を上から覗く |
ボクがこの場所で気をつけているのは2つある。一つ目は「人的リスク」、二つ目は「疲労」だ。鷹戻しは怖いもの見たさの登山者を惹きつける。それもあって、「本来はココに来るべきでない」人たちも呼び寄せる。そうした人たちが岩場で行き詰まったり、通過に異常な時間をかけたりして渋滞を引き起こす。
| 並列にかかる鎖 |
すれ違いや追い抜きで使えるように、鎖が並列にかかっている場所もある。だが、岩場の1ピッチに入るのは1人だけの原則は守った方がいい。進退極まったハイカーがしがみついてくる、なんてこともありえないとは言い切れないからだ。
ボクがここに入る時は、必ずヘルメットを着用し、ハーネスにはセルフビレイ用のスリングとロッキングカラビナを装着する。それは、不意の落石や、すれ違い時の事故を防ぐためだ。
二つ目の「疲労」だが、妙義神社から縦走してくるとここから終盤になる。そして鷹戻しから中之岳までこそがこのルートの核心…ここで前腕がパンプしているようでは進退極まるので、冷静に自分の体調を観察することが求められる。
| 終盤のトラバース |
鷹戻しの頭に抜けたところで、東海方面から来た2人組の女性ハイカーに出会った。一人は「いつか鷹戻しを登りたい」とずっと思っていて、「他の山でいろいろ練習」をして、「ついに今日来れた」、そんな話をしてくれた。
もう一人は…「まだ山を始めたばかりなのに、こんなところ連れてこられて、びっくりして笑いが止まりません」と言いながらケラケラ笑っていたw
二人は中之岳から中間道を降り、ホッキリに上がり、鷹戻しを登ったところだという。ここから中之岳へ戻るのは、ボクと同じ。ここから2箇所厳しい鎖場があることを説明したりしながら、下降に備えて休憩を取る。
そして、ボクが先行して鷹戻しの頭からの下降に入る。ここは二段ルンゼと呼ばれる難所で、個人的には鷹戻しよりも1グレード上に感じる。
| 正面岩塔中央のV字が二段ルンゼ |
上段は左右からの圧迫感がある、ほぼ垂直のチムニー状。スタンスは豊富なのでよく見て下れば問題ない。
| 上段とテラスに女性2人ハイカーが見える |
下段は降り口から先が見えない。しっかりと身を乗り出すと、大きなスタンスが見えるのだけれど、切り立った岩壁で虚空を見下ろす恐怖…
鎖を手に空中に乗り出してから身体を返して、出っ張ったスタンスに立つ。体勢を整えたら下降を始め、鎖の流れに逆らって右に逃げる。鎖の左側は傾斜がキツく、一部はハング状になっていて、スタンスも小さい。体のバランスをとり、振られないようにしながら、右側にルートを探す。
| 東岳直前で振り返る |
無事に降りて、鞍部で単独行のハイカーとすれ違った。
東岳へ登り返す直前で、左に第4石門へのエスケープルートが降っている。そこをちょうど降り始めた3〜4人のグループが居た。そのうちの数人が、トレッキングポールを出していた。エスケープルートにはロープ辿る場所もあり、傾斜もあるのでポールは使わないほうがいいように思った。ただ、パーティそれぞれの判断もあるので、何も言わずに見送った。この人たちには、後で大砲岩あたりで再会する。
エスケープルート分岐を過ぎて東岳への登路が始まる。二段ハングの下降でアドレナリンが出ているせいか、恐怖感は薄れてサクサク登る。
| 拡大 |
後続の女性2人組は、二段ハングの途中にいた。先ほどの単独行ハイカーとのすれ違いで時間をとったのだろうか。
| 東岳頂上直前からコール |
東岳のピーク直前で振り返ったら、ちょうどこの2人組が、二段ルンゼの基部に降りたところだった。間に遮るものがないので、声がよく通る。コールして、無事を喜び、またどこかで再会をと伝えて別れた。
| 東岳のピーク |
東岳のピークからは最後の中之岳と、入山できない金洞山と星穴岳が見える。
| 左が中之岳 |
東岳のピークには短い鎖で登り、反対側を鎖で降る。そこから滑りやすい岩と土混じりを降ると…最後の難所の東岳からの下降。
| 東岳山頂の短い鎖 |
ここの東岳から降る長い鎖は、下部が少しオーバーハングしている。ここと二段ルンゼが表妙義最難関なんじゃないかな?と個人的には思う。
ここも鎖の流れに逆らって、左右に逃げて傾斜を逃す。そうでないと、壁から足が離れて宙吊りになるので、腕力の弱い人にはかなり厳しい下降になる。しかもここで落ちると止まらず、遥か下の沢まで吸い込まれてしまう。
基部に降り立って安心したせいか、ここの写真を撮るのを忘れた。もういい加減疲れていて、カメラを取り出すのも面倒くさくなるw
| 金鶏山とぐるりと回る車道 |
中之岳手前で浅間山の写真を撮り、山頂の祠にここまでの無事を感謝する。
第4石門の広場に抜け、中間道に入る。
| 第4石門 |
大砲岩の岩場で、先ほど第4石門エスケープルートに入ったグループと出会った。メンバーの一人が、二段ルンゼ下降の最後の最後で足を滑らせ、アキレス腱を怪我したそうだ。
それで、トレッキングポールを出していたのか…
最後の最後で良かったですね、そう言ったら、「確かに!」と笑いが出た。
転落せずに基部まで降りてなによりだったし、そこからなら登り返しなしにエスケープルートに入れた。大砲岩からは自然歩道になるので、難場も無い。
中之岳神社の駐車場まで、どう降ったら良いか尋ねられた。登り返しの無い、最短ルートを考え、石門ルートから分岐する、「石門を通らない」下山道をお知らせした。児童の遠足などで石門ルートを登りに使った場合、下りに使われる程度の難易度で、道も整備されている。足を怪我した人が下山するには、一番良いと。
グループと分かれて、中間道の下山を続ける。思った通り、コースタイムよりもだいぶ早く、2時間程度で妙義神社に戻れた。今日の無事を感謝し、そこから道の駅を突っ切って、登山者専用駐車場に戻り荷物を下ろす。
今度はユーヤを誘ってみようかと考える自分がいて、思わず苦笑いしながらエンジンをかけて帰路についた。