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2021年9月7日火曜日

中古ホイールセット買いました (1/2)

ロードバイクの、ホイールセットを買いました(注1)。持っているのはこんな感じ。

1 完成車購入時に付いてきたホイール(海外ブランドなので、ガタイのしっかりしたオーナーが使い倒しても大丈夫なくらい頑丈。しかも、グラベル&ツーリングバイクなので、ひたすら頑丈で重い、いわゆる鉄下駄)
2 海外通販で購入したカーボンリムの軽量ホイール(耐久性はある程度犠牲にしてあるけれど、ヒルクライムとかは楽)

僕が今後やりたいのは、サイクルツーリング。キャンプしたりしながら、数日間にわたって放浪する。僕は山に入っていくのが好きなので、途中で補給ができないような場所にも行くだろう。そうすると、自給自足できるような装備を積んでいく必要があって、荷物が多くなる。で、重量もかさむので、丈夫なホイール、1の鉄下駄を使うことになる。

ただ…荷物で重量が増えてさらにこのホイールで峠を超えるとか…罰ゲームかよ…

そして、鉄下駄ホイールはクリンチャーリム。カーボンホイールをチューブレスで乗るようになって、僕はその快適性に虜になった。

そんなわけで、もうちょっと軽くて、丈夫で気兼ねなく使えて、チューブレス運用できるホイールを、安く手に入れたいなーと思っていた。

左が今回買ったホイール、右は鉄下駄

そんな時に、ちょうどいいホイールセットを見つけて購入した。Fulcrum Racing 5 DB、新品の半額弱の25,300円(税込)で売っていた 。

現代のグラベル・ツーリングバイクは、雨や泥の悪条件下でもブレーキが効くように、ディスクブレーキを装備している。マウンテンバイクのブレーキは、カンチレバーブレーキからVブレーキ、そしてディスクブレーキへと移行していった。そのときと同じく、ロードバイクもリムブレーキからディスクブレーキに移行する過渡期があった。そして、様々な規格が生まれては消えていった。

僕のバイクはちょっと古い規格で、前後ともQR(クイックリリース)ハブなのだ。で、最近のグラベル・ディスクロード用のホイールは、前後スルーアクスルハブ。そのままでは使うことができない。このホイールは前後QRで、初級者用モデルでちょっと重量はあるけれど、その代わり頑丈にできている。

とりあえず、オーバーホールを始めながら、状態を確認する。当たりの個体でありますように…南無南無

フロントのハブシャフトを抜く

とりあえずフロントからバラして確認していく。初級者グレードのホイールは、カップ&コーン構造+ルーズボールのベアリングが普通。このホイールは、シールドベアリングが入っていた。防水・防塵効果が高くて耐久性に優れるシールドベアリングはうれしいね。オーバーホールもやりやすいし。
使用感の無いフロント

組み付け時に封入されているはずのグリスはほぼ無くなっているけれど、汚れやサビの無い良好な状態だった。ベアリングを回転させてみると、当たりが出たかどうかギリギリみたいな使用感。

ショップタオルで汚れを綺麗にして、シールの隙間から高耐久オイルを浸透させる。そして、表面には防水用のグリスを盛り上げて、組み上げ。
グリスが隙間を埋めることで雨の侵入を防ぐ

ここまでの写真を見て気がついた人もいるかもしれない。このフロントホイールは、QRがセットしてあるけれど、ハブそのものは、スルーアクスル対応型。12mmのシャフトでフロントフォークと剛結する、現行規格のハブ。

12mmスルーアクスルシャフトの代わりに入れると、QRとして使えるアフターマーケットパーツが入っていた(注2)。
Micro Hero のQRアダプター
ピンクパープルのシャフトがそれで、Micro Hero という台湾のブランド。Made In Taiwan の自転車パーツは、中国本土製と比べるとまったくレベルが違う。というか、台湾製は僕は信頼しています(個人の感想です)。

フロントホイールは、ほぼ新品と言っていいくらいのコンディションだった。逆になぜこのホイールセットを手放したのか?ちょっと気になりつつ後輪のメンテナンスへと続きます。

つづく

注1 スポーツバイクのホイールは、前後で組み合わせて販売しているものをホイールセットと呼びます。

注2 リムブレーキからディスクへの移行は、規格が乱立していた。
フロント QR9mm x w100mm → TA 15mm x w100mm または TA12mm x w100mm
リア QR10mm x w135mm → TA12mm x w135mm  (ブースト規格では w142mm)
これはロードの場合で、MTBやファットバイクはさらに複雑。
で、フレームの規格を変えるのはいろいろ大変だけど、フロントフォークは比較的簡単。なので、前後QRから、前後TAに移行する間に、フロントフォークだけTAで、フレーム(とその一部のリアエンド)はQRという規格のモデルが結構あった。で、ホイールセットにも、前だけTAでリアQRというパターンも存在した。このホイールの前オーナーは、そんなモデルを買って、前後QRのバイクで使っていたんじゃないかな?

2021年9月5日日曜日

バイクメンテナンスのヒント ディレーラーハンガー(2/2)

 前回の続きです

    3.プーリーケージが微妙にスポークに当たっている

**3の症状は深刻な問題に直結するので、今すぐ乗るのをやめましょう**

と書いたわけだけれど…なぜ…「3. プーリーケージが微妙にスポークに当たっているの状態で乗り続けてはいけないのだろうか?

答えは…ディレーラーがホイールに巻き込まれてドツボにハマる直前だから。

ディレーラーハンガーはあえて柔らかいアルミで作られている。だから、ディレーラーをヒットしたり、チェーンに木の枝などを巻き込んだりすると、簡単にゆがんでしまう。そして、ハンガーがゆがむことでフレームが守られるわけだ。

問題は、ハンガーが内側にゆがんだ場合、ディレーラーとホイールのクリアランスが少なくなる。そんな状況で、リアをロー側にシフトしたら…回転するスポークがディレーラーを巻き込んでしまう。

新車の時、ディレーラーのプーリーケージとリアホイールのスポークには、十分な隙間がある。その隙間が少なくなっているということは、ハンガーが内側にゆがんでいるということ。そして、ディレーラーがホイールにいつ巻き込まれるかわからないということなのだ。

これがフィールドで起こると、わりと大変なことになる。

かれこれ15年くらい前に、MTBでよく行っていた古い峠道がある。そこで、いきなりヨーイチが叫び声をあげて停止した。面倒くさいから置いて行こうかと思ったのだけれど、心優しい誰かが止まってあげてたので、仕方なしにみんなで集まった。

どしたの?
いや、チェーンに枝を巻き込みまして…
…?
ペダルを逆回転させまして…
ほうほう…
枝が外れたと思ってペダル漕いだんです。
……
そしたら、なんか引っかかってまして
www
で、ま、大丈夫かってペダル踏んだらガツーンて来ました!! 
wwwwwwwwww
wwwwwwwwww 
 
あのな…
はい?
そんな時は踏み込むな!
押忍!

見て見たら、ディレーラーがリアホイールに巻き込まれて、テンションケージが変形して、ディレーラーハンガーはあさっての方向を向いている。

正座して反省するヨーイチ

ディレーラーが無事ならば、ハンガーを力技でひん曲げて修正する。ロー側でディレーラーが巻き込まれる可能性があるようならば、L側のアジャストボルトを締め込んで、ディレーラーが巻き込まれる位置まで動かないように規制してやる。そうすれば…とりあえずは走れる。

この時はディレーラーは変形してオシャカ。ハンガーは変形して、シワが寄っている。こうなってしまうと、内側にクラックが入っている可能性が高く、曲げ直した瞬間にハンガーが根元からモゲル。

チェーン切りで長さを詰める

しかたがないので、まずはチェーンを切る。チェーンをケージから抜いて、リアのディレーラーのボルトを緩めてハンガーから外す。シフトワイヤーも外して、ディレーラーは片付けて、ワイヤーは邪魔にならないようにまとめてフレームに固定する。

そして、スプロケットの真ん中あたりのギアにチェーンをかけて、できるだけピッタリの長さになるようにチェーンの長さを詰める。
切ったチェーンと外したディレーラー

シングルスピードバイクになるわけだけど、下り坂なら問題ないし、急な登りなら押して上がれば良い。とりあえず、下界に降りるためだけの応急処置というわけだ。
シングルスピード化

ヨーイチのバイクはTREKの上級モデルだったはず。しかし、その後、MTBで遊んでいるという話は聞かない…

ハンガーとディレーラーを取り寄せるのが面倒くさくて、放置しているのではないだろうか…
あれは、TREKが米国生産を続けていた時代の、希少なアルミフレームのMTBだったはず…
あーもったいないw

駆動系の最終チェックをするヨーイチ
山の中でライドするならば、最低限のツール類は携行しましょう。そして、トラブル対応の経験は積んどいた方がいいよ。ロード・MTB関わらず、スポーツバイクは壊れるものだから、ネ。

皆さんが次回も楽しくライディングできますように!

おしまい

2021年9月3日金曜日

バイクメンテナンスのヒント ディレーラーハンガー(1/2)

スポーツバイクでシフト(変速)が決まらないのは、嫌なものだ。

新車の時にはスパスパ決まっていたシフトが、少しずつダルになっていく。チェーンやスプロケット、チェーンリングは消耗品。摩耗して隙間が増えてしまうと、シフトがもたつくようになる。

そうした、経年変化による問題はもちろんあるのだけれど、「ある日急にシフトが決まらなくなる」ような問題もある。落車や、駐輪しておいたバイクが横倒しになって、その時を境にシフトが決まらなくなる。そんなトラブルで困っている人向けの tips を書いてみよう。

ここで例にあげるのは、次の3つのような症状だ。
  1. リアの変速がどうも決まらない
  2. ペダルを逆回転させると、スプロケットの上でチェーンが暴れる
  3. プーリーケージが微妙にスポークに当たっている
**3の症状は深刻な問題に直結するので、今すぐ乗るのをやめましょう**

バイクメンテナンスを、ある程度自分でやろうと思うならば、信頼できるガイドブックは1冊持っておいたほうがいい。僕がお勧めするのは、 "The art of ROAD BIKE MAINTENANCE" 英語アレルギーでなければ…ネ
図解が多くてわかりやすい

今回のポストは、下の図で、 "derailleur hanger" と書いてある部分の話。ディレーラー・ハンガーは、フレームにディレーラーを「吊り下げている」部分。ここが歪んでしまうとリアのシフトが決まらなくなってしまう。

説明は英文だけど平易な表現

そもそも、なぜハンガーが歪むのだろうか?

ロードバイクでもマウンテンバイクでも、「普通に乗っている」限りにおいては、十分な耐久性を持たせてある。平均的なアジア人体型の僕らが使っている限り、自転車は壊れない(注1)。

ただ、人間が動力であるスポーツバイクは、どうしても軽さを優先して丈夫さが犠牲になる。軽さと耐久性は、普通はトレードオフの関係にあるからだ。

上級者向けで値段が高いスポーツバイクは、思いのほか扱いがデリケートだったりする。また、ユーザーが適切なメンテナンスをすることを「前提」として作られていたりする。だから手入れをしないと、壊れたり、あっという間に寿命がきたりする。だから、初心者ライダーが、あんまり値段が高いバイクに手を出すと、すぐにぶっ壊れて泣きをみたりすることになる(注2)。

横倒しに落車したり、フレームを尖った物で叩いたり、こじったり、そんなプレイにスポーツサイクルは極端に弱い。さらにショックなのは、落車でフレームがオシャカになったら、ほぼ間違いなく補償の対象外なのだ。自己責任、落車したら、あなたがヘタ悪いってこと。

仕方ないのでフレームだけ購入して、パーツを載せ替えするとしよう。30万円の完成車のフレームってだいたい20万円する。フレームだけで20万円で、パーツ代が15万円、完成車で30万円?計算が合わない?そうだね。

完成車はもともとお得な値付けになっていて、フレーム+パーツで最初から揃えると値段が高くなるのだ。

まぁ、そんな感じで、プロショップでパーツを入れ替えてもらう工賃を考えると…よっぽど掘り出し物のフレームが見つからない限り、新車を買った方が安くつくということになる。

で、まぁ、落車とかならまだしも、バイクを横倒しにしただけで、フレームがオシャカになるようなトラブルが頻発すると、あまりにもアレだ。

バイクを倒した時、ヒットしやすいのがリアディレーラー。フレームとディレーラーを繋いでいる部分がぶっ壊れて、フレームがお釈迦になるとまずい。

そこで、考え出されたのがリプレーサブル(交換式)ディレーラーハンガー。そこの部分を、交換可能にして、あえて柔らかいアルミニウムで作って、いざというときにはそこが壊れることで、フレームを救おうという理屈だ。

フルサスマウンテンバイクの、GT はこんな感じのパーツがついている。フレームの後端の一部とハンガーが一体化していて、奥がオリジナル。
手前が改良型で太い

どうやらハンガーが曲がるトラブルが多かったようだ。手前が交換用パーツなのだが、肉厚になって強度が上がっている。フレームとは、ボルト2本で結合される。

MTB用ディレーラーはぶつけにくいように引っ込んでいる

変形の度合いが少なければ、歪みをチェックして修正する工具を使うことはできる。ただ、柔らかいアルミでできているハンガーを、力技で変形させるという…荒技なので、お勧めはしない。

テコの応用でグイッとな

最初に書いた3つのトラブルのうち、典型的な症状は2番。

2. ペダルを逆回転させると、スプロケットの上でチェーンが暴れる

こうなったら、ディレーラーハンガーを取り寄せして交換するべき。それでも治らなければ、信頼できるプロショップでフレームそのものの芯がずれていないかチェックしてもらうのがいいだろう。

つづく

注1 マジな競技用のバイクは、ライダー+装備で何キロまで耐えられるかという制限重量が設定されている。気になるようならば、マニュアルや、メーカーのHPを確認してください。

注2 普通の人が最初に買うスポーツバイクの値段は、多分20万円くらいが限度なんじゃないかなぁ。あんなエンジンもついてない奴に、そんな値段がついてるのがおかしいって思うでしょ?でもまぁ、スポーツバイクの裾ものは、ロードなら8万円、MTBのハードテイルなら10万円、ロードの中級グレードとMTBフルサスのボトムラインが30万円くらいですかね。だんだんと感覚が麻痺しますので、注意ねw

2021年9月2日木曜日

闇を歩く (緊急事態編)

そもそも論として、なぜ夜間行動はやるべきではないのか?

早朝に歩くのと、日没後に歩くのは違うと書いた。日没後に闇夜を歩くのは、往々にして時間切れによるものだ。言ってみれば延長戦で、残業で、仕方なしにやるということ。

日没時にまだ行動しているというのは、すでにトラブルを起こしているということだ(注1)。

月光とダケカンバ

僕はどちらかというと心配性で、かなり余裕をもった計画を立てる。だから、下山が遅れて夜を迎えるというのは、今までに2回しかない。2回しかないけれど、下山が遅れた時に、停滞するか、そのまま夜間行動をするかについては考えてある。
甲斐駒ケ岳山頂山体入り口の鳥居
僕の考えを書いておこう。

留まることにリスクがあるなら、動かざるを得ない。停滞することで命が削られるならば、すこしでも安全なところに移動する必要がある。例えば、

暴風と低温で低体温症の恐れがある
メンバーに高山病の症状が出ている
雪崩や落石、鉄砲水の恐れがあるルート上にいる

このような場合は、いつ、致命的な事故にあうのかがわからないので、速やかに行動をする必要がある。その日の最終目的地まで行動するというわけではなく、まずは標高を下げ、風雨を避けて、安全に停滞できそうな場所へ移動する。そしてそこで、それ以降どうするかの判断をする。

夜間行動になんのリスクも無いならば、進んでもいいだろう。ヘッドランプもいらないくらいに月光が明るく、舗装された林道を下るだけで良いならば、停滞する理由もない。

雲海に浮かぶ八ヶ岳

そのほかに検討すべきことをあげておこう。

1 地形 道迷いしやすい地形なら動いてはいけない
2 体力 食事・給水・睡眠は十分か?靴ズレなどはないか?
3 装備 十分に明るいヘッドランプと予備電池はあるか?
4 パーティ メンバーの足並みは揃っているか?

これらの項目すべてにおいて不安が無いことが最低条件だ。

ただし、「なんとしてでも、当日中に下山しなければならない」と思っているならば…夜間下山を諦めたほうがいい。

なんとしてでも
〜しなければならない

そう思っている時点で、心の余裕を失っているからだ。
逆説的になるけれども、「仕事」や「交通機関」などの事情や、悪天が続いて予備日を使い切ってしまった、そんな切羽詰まった状態であるならば、むしろ下山するべきではない。

下の写真は、間ノ岳へ向かう登山道。夜間行動では、これくらいしか視界が確保できない。こんな状況で、焦って動けば本当に危ない。
間ノ岳への稜線

先程の4項目で不安を感じたら、停滞を決めよう。ブーツの紐を緩めて足を休ませる。そして食事を取ろう。必要なら防寒着を着て、可能であれば仮眠を少しでも取ろう(注2)。

薄暗くなり始めたところで行動をやめて、仮眠に入ったとする。そうすると、夜の7時とか8時くらい、ほとんどの人にとっては普段よりも早く就寝することになる。すると、翌朝は普段よりも早く、もしかすると4時頃には目が覚めてしまうのではないか。

朝食をとりながら、周囲の様子を観察しよう。体力が回復し、月が明るく、地形が明確にわかり、何よりもメンバー全員が自信を持って進めるならば下山を開始すれば良い。

前回書いた通り、同じ夜間行動するなら夜明け前にしたほうがいい。4時に下山を始めれば5時ごろには薄明るくなる。当初の計画が間違えていなければ、7時くらいには前日の目的地についていることだろう。
この景色が朝か夕刻かで、こころのゆとりが変わってくる

繰り返しになるけれども、同じ景色でも心の持ちようで、見え方は違ってくる。同じような暗闇でも、こころを落ち着けて注意深く見通すのと、焦って曇った目で見るのでは大きく変わってくる。

時間に追われて残業をした時に限って、データを消してしまったり、関数の設定を間違えたり、よりによってこれを間違えるか?というタイポを見過ごしたり…そんなポカミスの経験はないだろうか?

オフィスでのポカミスも、洒落にならないかもしれない。だが、山でのポカミスは…命に関わることを忘れてはいけない。

次回の山行も、どうかご安全にお過ごしください。

おしまい

注1 トレラン界隈では、100km 走るとか、100mile 走るとか、連続して24時間以上行動するとかが流行っているらしいです。言うまでもありませんが、このブログはそうした人たちではなく、あくまでも一般的な登山者を対象にしています。

注2 こうした仮眠にそなえて、ツェルトかシェルターを持つのは大事です。

2021年8月31日火曜日

さるこばっぱ

僕が子供の頃、「サイクル野郎」という漫画があった。自転車日本一周を志した、若者2人の物語。僕はこの漫画に結構な影響を受けていると思う。

僕が初めて自転車で長い距離を走ったのは、高校2年生の夏休みで、東北だった。田沢湖まで輪行し、最後は仙台から輪行で帰った。途中の経路は、多少あやふやではあるのだけれど…

田沢湖〜八幡平〜鹿角〜十和田湖〜奥入瀬〜八戸・鮫〜龍泉洞〜釜石〜遠野〜中尊寺〜気仙沼〜松島〜仙台

行きに一日、帰りに一日を電車の移動日にあてた。そして、間の12日間、一日平均100km 走行の総延長1,200kmサイクリング、2週間。

デジカメどころか、PCや携帯電話すら、夢物語の時代なので、当時の写真は全部フィルム。写真や旅行のメモは実家にある。だが、節目節目の記憶は、あれから35年以上過ぎた今でも鮮明に蘇る。

みちのくの人は優しい。

遠野では、神社の社務所に泊めさせてもらった。
奥入瀬や仙台(赤門)ユースホステルの歓待も忘れられない。

若者が一人で東北を自転車で旅すると、いろいろ世話を焼いてくれる人が現れる。道路脇からおばあちゃまが現れて、トマトやナスやキュウリをくれる。港を見ながら休んでいたら、カゴをぶら下げて来て、いきなりホヤの殻をむき始めて、食べさせてくれたおじいさんもいた(注)。

みんなニコニコしてて、あったかくて、おしゃべりで…
皆さんの言っていることは良くわからなかったのだけれど、ね。

だってさ、「カタグルマ」のことを「さるこばっぱ」って言うんだよ。猿の子供が…まではだいたい分かる。でもさ、「ばっぱ」ってなによ?w

縦横せいぜい200kmくらいの狭い関東平野で、人生のほとんどを過ごしてきた僕。僕にとって走っても走っても終わりがない東北というエリアは、ものすごい魅力的だった。そんな経験のせいもあるのか、僕は東北の港町で生まれ育ったひとと出会い、彼女に惹かれて結婚した。

彼女の故郷は、あの地震と津波でひどい被害を受けた。
3.11後…

いろいろと、つらいこと、やりきれないこと、腹立たしいことがあった。救いになるのは、それでも立ち上がろうという東北の皆さんの姿でもある。

ウチの奥さんは言う。

寒くて風が強くって、広くって、いろいろ大変で、そんな中で我慢して、耐えて、生きて来たんだからっさ。強くなって…

あたりめだべっちゃ

そう言えばと探したら、奥様が地元で免許をとった時の写真が出て来た。

東北のとある港町の教習所

奥様は、東北出身で首都圏の僕のところに嫁いで来た。教習所には逆のパターンで、首都圏出身で、東北に嫁いで来た人が何人もいたそうだ。そして、その人たちは結構苦労していて、奥様が通訳をしたこともあったと言う。

「なめかけ、なめかけ、ちれーにかけよーーーぉぅ」

教官が何を言っているか判るだろうか?
奥様曰く…

「名前を書いてね、名前をね、綺麗に書いてねー」

彼女に言わせると、津軽(青森)の言葉はさらに異次元なんだそうだ。そんな話を聞くにつれ、僕のみちのくへの憧れは募るばかり。なんとか、2週間くらい自転車で走る機会を作れたらいいなと願っている。青森・秋田・山形・福島、もちろん岩手・宮城にも再訪したい。

車で通過するのと、自転車で走るのと、その土地を知る深さというのは明らかに違うものだから。

もし、身近に高校〜大学生くらいの若者がいて、国内を旅したいと思っているならば、ぜひ背中を押してあげてほしい。徒歩でも、鈍行列車でもいい。ただ、移動できる距離や費用の点から言えば、自転車に最低限のキャンプ装備を積んで旅をすることをお勧めする。

その思い出は、きっと、その若者の人生を豊かにしてくれることだろう。

おしまい

注 ホヤは癖があるから苦手という人もいるが、僕はこの時スーパーフレッシュなホヤで開眼したせいか、今でも好物です。

2021年8月27日金曜日

Hike3 甲斐駒ケ岳 黒戸尾根

ここ最近、友人が何人も黒戸尾根から甲斐駒ケ岳に登っている。で、そう言えば、黒戸尾根の日帰りピストンやったことないな…今やっておかないと、年齢的に厳しくなるなと気がついた。

住まいから甲斐駒ケ岳までは遠いので、なかなか足が向かないのだ。最初に登ったのは同じく黒戸尾根からで、七丈小屋のテン場で泊まった。昼間からビールを飲みまくって早寝して、翌朝は日の出前に出発して登頂し、テントを撤収してとっとと下山した(注1)

今回は荷物を軽量化して、日帰りトライとする。

闇夜を歩いて、樹林帯で日の出を迎える

仕事を終えて帰宅し、尾白渓谷側の入山口到着は23時。2時に起きようと思ったのだけれど、寝過ごして登山開始は4時少し前。
足早っ!荷物小さっ!

途中でトレラン3人組に追い抜かれた。彼らは甲斐駒ケ岳を超えて仙丈ケ岳まで往復して帰ってくるんだそうだ…日帰りで…目標タイムは12時間だって。変態w
信仰の山

七丈小屋に着く。コロナで営業も大変だろうけど、いつ来ても綺麗に手が入っていて、小屋番さんの人柄が偲ばれる。小屋に泊まったことはないのだけれど。
綺麗な湧き水100円、トイレ200円

感染症対策を徹底しながら営業中で、第2小屋の外壁も綺麗に塗り直されていた。
七丈小屋の第二小屋

小屋を通り過ぎるとテン場が2箇所ある。ここのテン場は良く整備されていて、快適に過ごせる。日帰りにしたのに後悔の気持ちが…ちょっと湧いてくる。

上のテン場から八ヶ岳を見たら蓼科山は雲に隠れていた。
八ヶ岳 赤岳が見える

テン場を過ぎるとちょっとした平地が続き、いよいよ山頂山体に取り付く。ちなみにトレッキングポールを使っているなら、ここから先は使い道が無いので仕舞うかデポしたほうが良い。膝に故障があるとか、荷物が重いとかでなくて、ピストンならば5合小屋跡あたりでデポするのがいいと思う。
2本の石柱は鳥居の跡

残雪期はここから先の夏道は雪の下。岩場と雪壁の連続で、鎖も基本的に雪の下なので、先行者の明瞭なトレースが無ければ登れなかっただろうな。今の時期は残雪もなく、要所要所には鎖がある。

歴史のある山であることを、鎖を見ると強く感じる。滑りにくい鉄製で、なおかつ30cmおきくらいに、直径3cmくらいの鉄のリングが通してある。そして、鎖の末端にはすっぽ抜けを防ぐプレート(注2)が設置されている。

花崗岩に刻まれた足場と、しっかりした鎖

ちょっと嫌なルンゼ状の岩場を抜けると、二本劔の岩場に出る。さっきから少しずつ高さを増している雲はちょっと気になるが、ここは雲の上。良く晴れて、気持ちのいい風が吹き、カラッとしていて快適。
岩の右に鳳凰三山と、その奥に富士山
クジラ岩?だっけ?みんなここで写真撮るよねw

無事に登頂。コロナの影響もあってか、平日とはいえガラガラの山頂。
人生2回目の参拝

そして山頂を見渡して、「本当の最高地点」にタッチ。
山頂で一番突き出た岩のてっぺんにタッチする

これやってない人は、正直、本当の意味で登頂してないと思うんだ。ゆーや、シンヤ、これやってなかったら、すぐにリベンジにGO!
周回路を見る

本当はピストンじゃなくて、ぐるっと周回したいところだった。4時に入山し、山頂着が9:30と、時間的には順調だ。しかし、右ヒザが少しずつ痛み出していて、登山自体が久しぶりなので断念。次回は七丈小屋でテント泊して、周回して下山するという一泊二日で計画してみようかな。

仙丈ケ岳

山頂は大快晴で、四方八方が見渡せる。
仙丈ケ岳も綺麗に見えたけど、さっきのトレラン3人組は…こっからあそこまで往復して、さらに黒戸尾根を降るのか…変態w
北岳、間ノ岳、塩見岳

雲は湧き上がっては流されているが、ガスに覆われそうな雰囲気がし始めた。下山の前にもう一度富士山を見たら、小さなケルンが目に入る。
ケルンを積んだ人はこの構図を狙っていたに違いない

下山に入ってすぐにガスが出て、入れ違いに山頂に向かった人たちはちょっと気の毒でした。僕は両膝に痛みが出て、トレッキングポールをフル活用しながらの下降になった。
苔むした小さな祠がそこかしこにある

結局下山は15時で、トータルの行動時間は11時間となりました。
あれっ?これ書いてて気がついたけど、

登り 9:30 - 3:45 = 5h 45m
下り 15:00 - 9:45 = 5h 15m

下りが遅い!www
どうりで下りで何人ものトレールランナーに追い抜かされたわけだよ…

無事の下山を報告し、感謝をお伝えする

車についた時は、アキレス腱、膝、太ももがパンパンになっていた。やっぱり自転車と登山で使う筋肉って別なんだよね、鍛えないとだね。


ログはこんな感じでした。
おしまい


注1 一泊二日の行程にしたのは、残雪期だったので山頂直下の雪壁が締まっている朝のうちに通過したかったこと。そして、アックス&クランポンが必要で荷物が重く、足回りも冬用の登山靴で、日帰りだと負担が大きそうだったこともある。

注2 鎖場で、手を滑らせながら下降してはいけない。一度加速がついたら、鎖を握ってもブレーキにはならない。必ず、片手と両足がしっかりと安定した状態で、残った手の位置を変えるようにする。足の位置をズラすのは、両手と片足がしっかり決まってからであるのも言うまでも無い。ステンレスの鎖は腐食しにくいけれど、滑りやすく握力の弱い人にはちょっと困る。そして、末端が切りっぱなしだと、鎖がそこで終わっていることにうっかり気がつかずに後ろに転ぶ可能性もある。このプレートには設置者のお名前が刻んであって、七丈小屋の関係者のようでした、ありがとうございます。

2021年8月26日木曜日

山力(ヤマヂカラ) その3 カメちゃん

*写真と本文は関係ありません*

少し上の斜面で転んだカメちゃんが、クラスト斜面を横滑りしながら僕の脇まで降りて来てこう言った。

部長、足やっちゃったかも…
え?マジ?
はい…折れた、と、思います、すみません。
足のどこだ?どんな感じで折れた?
足首のちょっと上です。転んだら、スキー取られて… 
ブーツの中で「バシッ」って音がしました。

僕らは草津芳ヶ平でBC合宿をして、下山を始めたところだった。最終日もハイクアップして滑ろうと思っていたのだけれど、あいにくこのシーズンは暖冬で小雪。しかも数日かけて緩んだ雪面がこの日は寒気が入って、2cmくらいのブレーカブルクラストになっていた。

で、こんな状態では滑ってもつまらないだろうということで、とっとと下山して温泉でも行こうかということになった。
富士宮口五号目でハイクの準備

ヒュッテのご夫婦や犬たちに見送られて、夏道を降り始めた。そして5分ほど降ってトラバースを過ぎ、傾斜が増してちょっと広くなった斜面の途中でカメちゃんが転んだ。

至仏山に向かう

ここは、ここ数日の間に下山した人たちのシュプールが、そのままの形で凍りついていた。表面はガリンガリンのボコンボコンで、板をズラすことが難しい。で、仕方なしにプルークで減速するのだけれども、テールでクラストを踏み抜くと板がロックされて、前に発射されてもんどり打って転ぶという、地獄のような悪雪だった。

カメちゃんアオちゃん

カメちゃんの顔は心なしか青白い。部員がみんな周囲に集まる。

ブーツ外して圧迫固定するか? 
交代で背負ってヒュッテまで戻るか?(注1)
いや、ブーツ外したら2度と履けないと思います、降ります。
とりあえず荷物降ろそうか、降るにしても戻るにしても、空身でなければ無理だろう。
ありがとうございます、お願いします。

僕らはカメちゃんの荷物をそれぞれに振り分けた。合宿の最終日だったので、バックパックには多少の余裕ができていたのが不幸中の幸いだった。そして、空になったカメちゃんのバックパックは、僕が体の前に横向きにして抱えた(注2)。

Blackdiamond Megamid を張る

カメちゃんは僕らの心配そうな視線に気がついた。

休んでいると動けなくなりそうなので、降ります。
解った、じゃぁ、他のメンバーでデラ(注3)かけて、整地しながら降る。その後をついて来てくれ。
わかりました、ありがとうございます。

で、僕が先頭になって、プルークからデラパージュ、プルークで向きを変えてデラパージュと、整地を試みながら降る。表面の凸凹はほとんど削れないのだけれど、一人、二人、三人と同じようにデラがけしながら進むと多少は滑りやすい雪面が後に残る。

骨折したほうの足首に力を入れられないカメちゃんは、ずっと同じ方向を向いたままの横滑り下山になる。疲れて息が上がると少し休み、夏道が平坦になったり少し上り坂になると、他の部員がすっと近づいて歩行を助ける。

下山路を半分くらい降ったところで、ようやくブレーカブルクラストも緩んで、そこからは重いけれども、デラが良くかかるザラメ斜面になっていた。
湯河原幕岩でアナザガールを登るカメちゃん

その先記憶がちょっと飛んでいて、次に覚えているのは医務室からケンケンしながら出てくるカメちゃんの姿。ゲレンデボトムにパトロール小屋があり、その隣に医務室があった。そこで応急処置をしてもらって、カメちゃんは足首をシーネ固定してもらった。

みんなは車に戻って、すぐに最寄りの病院に行けるように撤収準備をしている。で、医務室の外には、僕ともう一人の部員がカメちゃんに肩を貸せるように待っていた。

なんだって?
多分、いや、ほぼ間違いなく折れてるそうです。
ブーツの中だったからまだ良かったけど、1箇所か2箇所か折れてるみたいです。
そうか…良く頑張ったね。
次にこんなことになったら、自力下山せずに助けを呼ぶようにと言われました。
次回は…無いようにしたいね
ですねw

カメちゃんの口から、クスッと笑い声が出て、僕らは下山できたことに感謝した。

僕は思う、やっぱりあの時、僕はリーダーとして、自力下山を止めるべきだったんだろう。

ただ、「山力」とは、そもそもなんだろうか?とも考える。

カメちゃんは自分の怪我の状態と、天候や雪の状態を冷静に判断して、自力下山を選択した。そして、部員のサポートを得ながらそれを成し遂げたし、部員のみんなは何も言われなくても、カメちゃんの下山をサポートした。

山力とは結局のところ、自力で登山を完結できる力なんじゃないかな。そう考えると、カメちゃんの山力ってスゲーなと思う。

あれから15年と少し経ったけど、カメちゃんは相変わらずBCテレマークを続けている。東北の山で、楽しそうに登って滑っている姿をSNSで見る。

で、そんな投稿見ると、カメちゃんが「降ります」と言った横顔を思い出す。引き締まって、血の気の引いた唇と、青白い頬を思い出して、つい口に出すのだ。

やっぱスゲーよ、カメちゃん…

つづく

注1 本来なら、ヒュッテに戻って荷運び用のモービルかヘリを頼むのがベストだったと思う。この時は降り切ることができたけれど、僕の判断は間違えていたと今でも思う。

注2 怪我人がもう一人出たら、自力下山がさらに困難になっただろう。不要不急の荷物はマーキングしてデポし、全員が最低限の負荷で降るべきだったか?と思う。

注3 デラパージュ(横滑り)は、斜面に対して横向きになり、板を横に滑らせていく技術。板のエッジが雪面を均しながら進むことができる。