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2021年4月18日日曜日

山の神様 (2/2) 谷川岳西黒尾根の出会い

その日、僕はトレーニングがてら西黒尾根を登行していた。
落ちる雪がほとんど落ちて、BCスキースノーボードのシーズンが終わった時期の谷川岳登山は楽しい。アックスとクランポンのトレーニングにもなるし、暑過ぎないし、人もそこまで居ないしね。

ラクダの背から双耳峰の谷川岳を見る

これは典型的な残雪期の写真だけど、神様と出会ったのは、もう少し雪解けが進んだ時期だった。正面の尾根が西黒尾根で、そこを突き上げると肩の広場の東の縁に出て、そこから少し登ればトマの耳。

僕が、何かが上部雪面を動いている?ように思ったのは、このラクダの背から30分くらいのところ。ガレ沢のコルを過ぎて、登り返しに入り、ちょっと嫌なトラバースを過ぎたあたりだったと思う。危険な場所を過ぎて、ちょっと肩を回して背中のコリを取ろうと伸びをした。

ふと上を見て、僕は誰か滑落したのかと思った。

肩の広場から、西黒尾根になだれ落ちる雪の斜面を、跳び降りるように下っている…のか、滑落しているのか、尋常ではない速さで人影のようなモノが下降している。

あそこは、、、そこまで斜度は無いが、上から見ると高度感もあるし、足を踏み外したら割とやばいところだったはず。距離も遠いし、ブッシュか何かが風で転がったのかもしれないと僕は思った。

トマ耳から肩の広場の東の縁を下ると、西黒尾根下降点

だってね、上から見るとこんな感じだよ。ここを駆け下りるのは危ないねw

で、多分見間違いだろうと思った。まだ距離も遠いし、その影みたいなのも、今はもう見えないし。

僕はそのまま登り続けて、氷河跡とか滑り台とか言われる、ツルツルの岩場にさしかかっていた。谷川岳と、尾瀬の至仏山は蛇紋岩が主体の山体だ。蛇紋岩の特徴は、ツルツル滑ること(注1)。で、その場所は、名前の通りに、長い期間雪崩を受け続けて、テカテカに磨かれた斜面。

さぁ、気合いを入れていこうと僕は上部を見て…神様を見つけた。

氷河跡の一番上は岩溝状になっているのだが、その上からごま塩の短髪丸顔で、銀縁の眼鏡をかけた顔が覗いていた。その岩溝から、チェックの山シャツを着て、クラッシックな山靴を履いたその人が現れると、「下を向いたまま」岩から岩へ飛び移りながらこちらへ降りてくる。

えっ?って、見ていると、その人はまるで階段を駆け下りるみたいなスピードで、氷河跡をそのまま降ってくる。

で、僕がアホみたいな顔で呆然と見ているのに気がつくと、その人は足を止めることもなく、にっこり笑って挨拶すると、そのまま駆け下りていった。

その人も赤い年季の入ったザックを背負っていた。容量は20~30Lくらいなんだけど、とても小柄な人だったので40L くらいに見えた。とても不思議なことに、すごい勢いで下っているのに、ザックはまったくぶれることもなく、その人の背中に張り付いていた。

で、その赤いザックはすぐに小さな点になって、神様の姿は斜面の向こう側に見えなくなった。

僕は神様が下向きのまま駆け下りたその斜面を、しっかりと三点確保を意識しながら登攀した。そして、肩の広場に出て、とりあえずトマ・オキを回って帰った。

普通の人はこちら、肩の広場から天神尾根を見る

山の会で、先輩にこれらの神様のことを話しした。
驚くかって思ったら、皆さん普通に冷静で、

あーどっか行く前のトレーニングかもね
そうだね、時間が無いけど、身体動かしたいって人かも
西黒なら、記録とって登ればコンディション管理しやすいしね
いやいや、そんな人っていないっしょ?
神様じゃ無いですか?僕はあんなの初めて見ましたよ?

あのな…確かにすごい人たちだろうけど、ありえなくもないんだよ。
本当の山屋って、一般登山道にいないの。
バリエーションとか、登山道じゃないところに棲息してるの。
そうそう、フナがイワナのこと知らないみたいなもんw
多分あれだよ、ママ(注2)が言った時期が、ちょうどイワナとフナが出会うギリギリのところだったんじゃないかな?

フナ呼ばわりされたけど、不思議と腹も立たなかった。

そこで気がついたんだ。

そういえばここにいる人たちも…
それぞれの分野では神様みたいな存在の人もいたような、いないようなってね…

見渡す限り神様www

谷川岳西黒尾根の Trail Head


注1 蛇紋岩は特に濡れているとびっくりするくらいによく滑る。それと、蛇紋岩は木が生えにくいので、森林限界が大幅に下がる。谷川岳が標高が低い割りにアルペン的な景観を維持している理由の一つは、蛇紋岩でできているから。至仏山東面も、樹林帯が低い位置に留められている理由は蛇紋岩でできているから。

注2 山の会で、僕はみなさんにママと呼ばれていた

2021年4月17日土曜日

山の神様(1/2) 越後駒ヶ岳の出会い

*注3を追記しました*

僕は、越後駒ヶ岳と谷川岳西黒尾根で山の神様を見たことがある。今回は、越後駒で出会った神様について書いてみよう。

その日、僕は枝折峠(シオリ峠)から越後駒を目指していた。ここは夜明けに奥只見湖で発生した霧が、風に乗って稜線を超えて滝のように落ちていく現象で知られている。

奥只見湖の向こうに登る朝日

枝折峠から、夜明け前に登り始めるとちょうどいいタイミングで日が登ってくる。そして奥只見湖から湧き出た霧が、湖の上を覆い尽くし、稜線を超え始める。

ふと気がつくと、周囲には三脚を立てた人がたくさん居て、シャッターを切る音があちらこちらでしていた。今日は当たり日だったようだ。

滝雲

滝雲が見られて、越後駒に来た甲斐があったなーと思いながら、僕は淡々と登山道を登っていく。枝折峠にも、登山道にも雪は無かったが、標高をあげるにつれて、周囲には残雪が少しずつ増えていく。

沢筋の雪が繋がっていれば、滑るのも楽しいだろうね

そして、山の神様が現れた。

そこは、ザレた急斜面で、5〜15mくらいのスイッチバックを繰り返しながら高度を稼いでいく。

僕が100m標高を稼ぐのには15分かかり、1時間でだいたい400m を登る。面白いことに、このペースは荷物の重さや、登山道の傾斜にはほとんど影響を受けない。400m/h の登高ペースが僕にとっては快適ということ。で、このペースはそんなに悪く無い。というか、一般登山者が、夏道登山道を歩いている限りでは、速い方だと思う(注1)。僕は普段、他の登山者に追い抜かれることはほとんどない。

この時、ふと気がつくと15mくらい後ろを、彼が歩いていた。僕が歩いているここは、木立が無い崩壊地で、木立が切れてから15分は歩いている(標高差で言えば100m)。で、10分くらい前に振り向いた時には、樹林から抜けたところには、登山者は誰も居なかった。つまり、僕が15分かけて上がってきたところを、この人は5分で上がってきているということになる????トレランか???(注2)

スイッチバックでこの登山者を観察する。180cm を超えるくらいの長身で、チェックのシャツを着て地味な登山ズボンを履き、クラッシックな登山靴を履き、帽子を目深に被っていた。みなりはごく普通の登山者なのだが、その人は音を立てずにスーーーーッと登ってくる。

そこはザレた急斜面なので、僕も落石を起こさないように注意深く歩いていのだが、どうしたって足音はする。足を運ぶ時に、登山靴の下で浮石が動いたり、小石がバラけたりして、コツンとか、バラバラって、何かしら音がする。

だが、後続の登山者の足元からは、まったく音がしない。だから、彼が追いついてきていることに気がつかなかったのだ。

まったくペースが違うことがわかったので、ちょっと広くなっているところで僕は道を譲ることにした。

その人は、スーッと近づいてきて、ちょっと顔を上げて僕を見るとニッコリ笑った。汗もかかず、息も切らさず、「爽やか」という言葉がそのまま服を着たようなこの人は、「ありがとう」とだけ言ってそのまま僕の脇を通り過ぎていった。

彼の背中が見えて、そこに使い込んだ赤いバックパック(ザックと呼ぶのがぴったりの、ウェストベルトのないクラッシックなやつ)が乗っているのを見た。多分40Lくらいあるはずなんだけど、長身の彼の背中では妙に小さいナップザックのように見えた。

で、僕はこの人に付いていこうとした。なんでこんなに速く登れるのだろう、と思って、せめて足運びだけでも学びたいと思ったのだ。ところが、スイッチバックを3回くらい過ぎたところで、彼の足元を見るどころか、彼の姿は小さくなっていた。

肩の小屋

彼に追い抜かれてから、20分くらいで肩の小屋に着いた。雪解け水がジャバジャバ出ている水場で顔を洗い、ハイドレーションに給水していると、さっきの彼が山頂から下山して来ているのが見えた。上の写真で言えば、左側の尾根伝いにある登山道、このガスの中からチェックの山シャツを着た彼が現れ、あれよあれよという間に小屋まで来て、そのままのペースで下山していった。

僕はもうあっけにとられるしかなかった。僕を追い抜いたあのポイントから、たったこれだけの時間で山頂まで往復して来たって?

山頂ってガスで見えないけれどすぐそこなのだろうか?

一休みした後、僕は山頂に向かった。


越後駒ヶ岳山頂

ようやくガスが抜けてくる

山頂まで、近いわけでも簡単なわけでも無かった。尾根の登山道を詰めるとそこは雪渓になっている。で、そこからクライマーズライトにトラバースしていくと、最後の最後が結構急な雪壁になっている。クランポンを出すほどではないけれど、手元にはアックスが欲しいくらいの斜度。そこを、慎重にキックステップを決めて突破し、稜線を詰めてようやく山頂に着く。

ガスが晴れた肩の小屋、右のピークのさらに奥が山頂

山頂で写真を撮って、肩の小屋まで降りて来てリストウォッチで経過時間を見る。。。

さっきの彼は、どうやら現代風の装いをされた天狗様だったに違いない(注3)。

僕のCASIOプロトレックは、そう言っていた。


注1 ちなみに、下山の時には、100m の標高差は10分で下る。つまり、標高差600m ならば、1時間で下り切るということ。

注2 「トレラン」という言葉が、やっと一般に知られるようになったくらいの時代感。

注3 テレマーカーのJSさんから次のように教えていただきました。ありがとうございました。
「越後駒だったらその人は天狗ではありません、豊雲野神です。山頂の写真に写ってます」

2021年4月16日金曜日

Earn Your Turns、Earn Your Fun、人力万歳

こないだ横ノリ文化の Hierarchie について書いた。Surf が一番、SK8が二番、ずっと下がってSnow が三番ってね。で、Snowギョーカイの中の人たちは悩んでいた。

僕はそのギョーカイの人だったけど、バックオフィスの仕事だったので(だからスノーボード未経験なのに採用されたわけだけど)、どっぷりその世界に浸かってたってわけじゃなかった。んで、割と客観的にその辺りのことを見ていた。

僕の考えはシンプルで、「人力で完結するからサーフとスケートはエライ、なんじゃね?」って思ってた。

僕が当時ハマってたのはテレマークスキーで、こんな言葉があった。"Earn Your Turns" (楽しむ分は、自分で稼げ)。テレマークはもともとリフトとか無い野山を、駆け巡るための乗り物。ターンを楽しみたかったら、自分の足で標高差を稼げって言葉。

尾瀬に至仏山という、BCスキー・スノーボードの聖地みたいなところがある。

Rider: Taka3, Earning his turns,  Mt. Koshibutsu, Oze area.

そこの大斜面は広くてオープンで、斜度がちょうど良くて…東向きなので早い時間から緩んで、最高のコーンスノーで、長い!で、その長くて斜度がある2本を滑るために、もちろん2本分ハイクアップするんだ。

谷川岳エリアも、天神平まではロープウェイでドカンと上がるけど、そこからドロップインポイントまでは結構なハイクが待っている。

一ノ倉岳へ登り返す、後方は超えてきたオキノ耳

で、なんというか、その辺りがスポーツとしてフェアであるという、そんなリスペクトは他のスキーヤー達から受けているように感じていた。

サーフィンやったことないから知らんけど、サーファーも同じような感覚なんじゃないかな。サーファーから見たらスノボって、リフトとかゴンドラとか、バックカントリーって言ったって、モービルでブォーーーンとか、ヘリでバビューンみたいな…w

その辺の、エンジンとか、機械とか、モノに依存するスポーツはコアじゃないって、どの分野にもありませんか?

僕は、機械モノに頼るのは嫌じゃない。というかハイシーズンのディープパウダーを、ハイクアップして1日1本だけしか滑れないより…リフトとか、ゴンドラ回しで1日20本滑れたほうがいいよね(あっ、言っちゃったw)。だからこそ、僕はハイシーズンは天気図を真剣に見て、どこのスキー場のどの斜面が一番幸せに近いかを考えながら動いている。

そんな僕だけど、BCでは自力で完結できる範囲で行動している。というのは、機動力に頼りすぎると、撤退が困難になるからだ。

僕は以前、ガチなJeepに乗っていた。これは、大抵のところに入っていけるくらいの機動力がある。その代わり、他の車が入れないところまで行けちゃうので、ハマると帰れなくなる。

志賀草津高原道路

おんなじように、BCのフィールドでスノーモービルがスタックしたらどうする?
普通は出ない沖合でジェットスキーがエンジンストールしたらどうする?

マシンに頼ると、人力では到達できないところまでバビューンて移動できる。でも、そこで何かあったら、マシンに頼らない限り帰ってこれない。

僕は、遭難したらぜひマシンに頼って帰ってきたい。で、無理しないように人力で完結できる範囲で遊ぶのがいいのかなって感じている。

ゼェゼェ言いながらペダル漕いで登って、シングルトラックを降りたり。

Qchan, Mt. Akagi

電気も何にも無いところでヘッドランプの明かりで飲んだり。

Kame-chan & Qchan

「俺、なんでこんなところで、こんな怖い思いしてるんだろう」そんな、根源的で答えようのない疑問の答えを探しながら岩壁を右往左往したり。

Climber: Jibe / Blackrock, Mt. Haruna

途中で一泊して、延々と沢を遡行したり
Jibe & Aokki / Garan-zawa, Kusatsu area

たまにはのんびりと、グンマー國のローカルな温泉宿を目指して田園農村地帯を走ったり。
Yuchan & Keichan

ペダルを漕ぐとスーーーって走ることに感動したり。
First bike, First ride, First joy,

で、まぁ、僕はこの投稿を書きながらだいぶ酔っ払って、マシンでもレスキューできないくらい遠くまで来てしまった…

どうやってこの投稿をまとめるかという、困難な課題に直面して、仕方ないので自力で帰還するならば…

人力万歳、人力最高! でいいですか?www

Hierarchieとか、フェアネスとか、コアとか、とりあえず置いといて、自分の身の丈で遊べばいいんじゃね?ってことで。おしまい ⇦ 雑

2021年4月15日木曜日

スプリットボードって正直どうよ? (2/2)

シュッッ…シュッッ…クライミングスキンが雪に擦れるリズミカルな音をさせながら、タカさんが 横に並んできた。

ブチョ、どうですか?スプリットボード?
うん、快適だよ…ちょっとキョロキョロする気もするけど(注1)
スノーシュー背負わなくていいのって、軽くて良さそうですね。
うん!なんか体が軽く感じるよ。

僕は高揚感と少しの不安を感じていた。スプリットボードを使うのは今回が2回目で、本格的なBCは今回が初めて。前回は草津シズカ山スキー場の跡地をハイクアップして、かってゲレンデだった斜面を滑っただけだしね。

今日は平標山へ登り、ヤカイ沢を滑走する計画だ。

Mt. Tairappyo, Yakaizawa area

この日のメンバーは、僕(スプリットボード)、タカさん(テレマークスキー)、ヨーイチ(ボード&スノーシュー)と、雪山宴会部ならではの乗り物博覧会(注2)。

Yohichi, snowboards with step-in binding & boots configuration. 

僕らは林道を途中までツボ足で歩き、雪のあるところで各々のハイクアップ装備をセットして登る。しばらくしたら、クライマーズライトの尾根に乗り上げる。そして、尾根伝いに山頂稜線に上り、平標山の山頂へと至るのだ。

Yohichi & Taka

rider: Taka

尾根の取り付きが急斜面になっていて、そこで僕の苦行が始まった。
ヨーイチは、スノーシューのトラクションを生かして斜面を直登していく。タカさんは斜登行とキックターンでジグを切って登っていく。スプリットの僕は…僕は…行き詰まった。

スプリットボードで直登できるのは、緩中斜面。ちょっと斜度が増したら、登行はものすごく微妙なバランスになってしまう。ペナペナのボードは、シールを斜面に効率よく押し付けてくれない。雪が硬かったり、凸凹していると、シールがグリップせずに後ろに下がってしまう。

それではと、斜登行に入ろうとするのだが、スプリットボードはエッジが食い込まない(注3)。そして、斜面に対して横向きになろうとすると、スプリットのテール側はダランと下がってしまって方向転換を妨げる。ここで僕は理解した、スキーで使える「斜登行」「階段登行」「開脚登行」「キックターン」がスプリットでは使えないことを。

で、僕は後ろ向きに5mくらいずり落ちてすっ転んだ。斜面上部では、とっくに登り終えたタカさんとヨーイチが心配そうにこちらを見ている。

このままではここを突破できないので、バックパックからクトー(スキーアイゼン)を出して、スプリットに取り付けた。これで、固いところを選んで行けば、登れるのでは無いか?

もう一度登り始めたのだが…スプリットが幅広すぎて、少しでも斜面に対して斜めになると、クトーの谷側の爪が斜面から浮いてしまって効かなくなる。そして、内側の爪だけでは、効きが不足して登行ができない。僕はまた行き詰まって、今度は10mくらい滑落した。その後はちょっと記憶が飛んでいるw

Taka at the peak of Mt. Tairappyo

どうやってこの急斜面を突破して、山頂稜線にでたのか、僕は覚えていない。多分、ツボ足で力づくで上がったのだろう。

山頂まで500mくらいのところで、僕は疲労困憊してしまった。

タカさん、ヨーイチ、俺はここで待ってるよ。
えっ?せっかくだから山頂で写真撮りましょうよ。
いや、もう平標はなんども登ってるからいいや。二人が戻って来るまでの間に、スプリットを合体させて滑る準備をしてるよ。

タカさんとヨーイチが山頂まで行って帰って来たとき、僕はスプリットボードを合体させることができずに悪戦苦闘していた。インターフェイスが氷結して、何かがどこかで邪魔をして合体ができない(注4)。

結局、何かのはずみで合体が完了して、無事に滑走して下山できたのだが…その後僕がスプリットをBCに持ち出すことは無かった。

タイトなツリー越しにヤカイ沢を見る

デメリットを整理してみる。
*エッジが効かない、スキーなら有効な登行技術が使えない
*思ったよりも軽量化できない。
スノーシューはいらなくなるけど、幅広のクライミングスキンはかさばるし、重い。クトーも必要だし、ナイフエッジみたいな場所があるなら、クランポンも必要。
*スノーシューやスキーとの行動に制約がある
スプリット+シールでは一緒のルートどりで行けない斜面がある。そこでバラけると、ガスが出たりして視界が悪化した場合、パーティがはぐれるリスクも生じる。それに、スキーのトレースは幅が狭すぎてスプリットは活用できない。特に斜面のトラバースで、スキーやスノーシューにはちょうどいい幅でもスプリットでは谷側の板を収めるスペースが不足する。こうなるとツボ足にせざるを得ない。

多分スプリットが向いている条件てのはこんな感じ。

◯穏やかな斜度で長いアプローチをスピーディーにハイクアップする。
◯スノーシューでは浮力が足りないくらいの深いラッセルがあるハイシーズンに入る。
◯パーティーが全員スプリットで、登るの大変なコンディションになったら降りるとか、コンセンサスができてる

北海道とか、東北とか、北米大陸みたいなスケール感には向いているんじゃないかな。


で、僕らが発見したスプリットボードのもっとも有効な使い道はこれ。

Yohichi & Taka

太めで長いスプリットボードは、カードゲームのテーブルに最適

クッソ、またDraw Four かよ!!!

スプリットボードの装備一式は結構なお値段。購入に踏み切る前に、僕は普通のリジッドボード+スノーシュー+クランポンで、BC経験を積むことをお勧めします。

では、皆様、ご安全に。

*最新のインターフェイスなら、欠点は改善されているかも。しかし、ボードの幅やブーツの剛性などに起因する、物理的な欠点は変わっていないと思われます*

注1 スプリットボードの滑り心地、フレックスとかトーションのバランスはノーマルボードと変わらなかった。その代わり、スキーポジションにすると、薄いベニヤ板を履いてるみたいにペランペランに柔らかい。足裏の前後20cmくらいしか、雪に密着していないように感じる。

注2 雪山宴会部は、登りも滑走もペースが同じくらいならば、乗り物に関係なく一緒に遊んでいた。これはわりと珍しかったようで、他のグループからも興味深く話しかけられた。さすがに、ソリとスノースクートのメンバーはいなかったけど…

注3 板は細ければ細いほどエッジは立てやすい。アイススケートみたいに細ければ、エッジング最強。ブーツはサイドが固ければ固いほど、エッジは立てやすい。そして、板のフレックスとトーションが固ければ、より強いエッジングができる。つまり、この要素が全部反対のスプリットは、エッジング能力ほぼ皆無…

注4 当時のバートンのスプリットインターフェイスは、氷結で分割と合体が著しく困難になることが知られていた。合体させられなければ帰ってこれないので、力づくで!ってやってレバーが折れる事案も頻発。対策部品がバートンからリリースされていた。僕はこの対策部品を手に入れて、なおかつ、凍結防止剤とシリコーンスプレーを吹きまくって、万全を期して行ったのだがダメだった。

2021年4月14日水曜日

スプリットボードって正直どうよ? (1/2)

僕はBurtonのCustom Split 166を一時期持っていた。

結局、BCでは2回だけしか使わなかった。というより、僕が遊ぶフィールドには向かないという結論になった。そして、スプリットとしてではなく、単にソリッドボードとして乗っていた。幅が太くてドラグしにくいので、シャバ雪の時だけ履く。そして、最近になって処分した。

スプリットのメリットはいくつかある。ハイクアップの時に、ボードを背中に背負う必要が無いので、風が強い時にあおられることがない。


with Yohichi, Mt. Tairappyo 



スキーもそうだけど、雪面をスライドさせて足を運べるので歩行が楽だ。スノーシューは足裏のスパイクを引きずらないように、軽く持ち上げなければならないから。

ゆるやかな斜面をストック滑走で下れることも、コースによっては大きなメリットになる。例えば、谷川岳芝倉沢からの下山で、湯檜曾川沿をダラダラと降るような時。はたまた、草津芳ヶ平からの下山とかね。雪が柔らかいと、スノーボード+ストック滑走だと推進力が足りずにスタックする。そうなると、結局ボードを脱いで、スノーシューでトボトボと歩くことになる。スプリットならスキーポジションで、歩行を組み合わせて降りることができる。

スプリットモード

ファットスキーよりも面積があるので、浮力は圧倒的だ。雪が柔らかくて深い時のラッセル登坂は、無敵なんじゃなかろうか。荷物を大量に背負ってハイクするような時も、スキーモードで歩けるのは楽だろう。


Rider: Shinya


幅が広いので沈まない

メリットは以上です…

デメリットもある。というか、グンマー國エリアではデメリットしか無いって言ったらいいのかも。その辺のところは…

つづく

2021年4月13日火曜日

便利を選ぶか、信頼性を選ぶか

BCスノーボードのクランポンで代表的なものは、GrivelのG10 ワイドとか、幅広のブーツにも合うタイプ(注1)。で、ソフトブーツにフィットするテープ締めになる。G10は、グリベルの爪10本という意味で、2本の爪はつま先より前に飛び出している。この前爪は硬くしまった雪の壁を突破するためにある。

春のザラメ雪をのんびりとハイクアップするコンディションなら、6本爪のアイゼンを選ぶこともある。これは、トラクションはスノーシューと同じくらいで、ハードな状況にはまったく向かないけど、トレースがきちんとあるような場合にはなかなか快適。

そして、6本爪になると、ハーネスは従来型のテープ締めに加えて、ワンタッチ型の物も選択肢に入って来る。で、そもそも6本爪はハードなところで使わないという前提だから、どうでも良いと言えばいいのだが、ワンタッチ型には隠れた危険性があるよという話(注2)。


これが、クィックフィット式ハーネスを備えた6本爪のクランポン。僕はこれを5〜6シーズンくらい前に買ったのだが、あまり痛んではいない。というのも雪が柔らかければスノーシューだし、固くしまった急斜面が行程上に1箇所でもあれば、前爪付きのクランポンにする。つまり、6本を出すのは雪が安定した残雪期で、登山道の一部にだけ雪がある、そんなときにしか使わないからだ。

岩や土の上でも履いたまま歩くので、スノープレートは傷んでいる

クィックフィットのクランポンには、ひとつ欠点がある。つま先側のストラップとバックルが、ブーツの横に出っ張っている。雪の上を歩くと、ストラップとバックルが上に押し上げられて、緩む方向の力を加えるのだ。ストラップの余った部分を切れば少しはましになるのだが、あまり短く切りすぎると装着の時に手間取る。

このタイプのクランポンはボルト2本を緩めることで幅を調整できる。登山靴とスノーボードブーツで共用したいというユーザーにはありがたい機能なのだが、登山靴とブーツはボリュームが違う。登山靴に合わせて着るとブーツがはまらなくなるし、ブーツに合わせると登山靴では結局あまってしまう。

ストラップはまだしも、バックルの位置が低くてブーツよりもはみ出すと、岩にこすったりぶつけたりして、破損のリスクも当然高くなってしまう。

バックルは岩に擦れて白く変色している

僕の使っているMベルのクランポンは、よく考えられている。バックルを締め付ける黒いレバーは一本だが、バックルを緩める赤色のレバーは左右2分割式。これを「両方同時に」引かないと、緩むことはない。

左右が独立して動くので、片方のレバーが異物で持ち上がっても解放しない

だが、それはあくまでも1〜2時間なら緩みにくいということ。ガシガシ半日くらい、踏み抜きやらキックステップやらザラメラッセルやらを繰り返しているといつの間にか緩んでくる(注3)。さっき言った通り、余ったストラップが雪を集めて来て、バックルを押し上げ、その下に雪を押し込んで来るからなのだ。

で、僕は、そもそもバックルが甲の上にあればいいんじゃないかな?そんな風に考えて加工してみた(注4)。


この位置なら、雪がバックルの下に押し入ることも減る

以前使っていたバックパックのチェストストラップ
もともとのリベットカシメは3.5mmのドリルでセンターを揉むと取れる

ナイロンでできたストラップを切って、クランポン本体の取り付けポイントを通して2つ折りにする。ストラップを切った後は半田ごてで溶かして始末し、リベットが通る4mmの穴もコテで開ける。これで、バックルはもともとの取り付け位置から3cmくらい上に移動した。これで多分、今までよりは使いやすくなると思う。

この投稿で僕が言いたいことは、クイックフィットがダメということではない。そもそも、簡易的に使用する物としては、とてもよくできているし、数時間の使用ならトラブルこともまず無いだろう。もちろん、厳しいコンディションに差し掛かったら、念のためにバックルが締まっているか確認するべきだし、帰宅したらプラスチックパーツの消耗具合ももちろんチェックすること。

僕は、このクランポンがダメになったら、次はテープ締めを選ぼうかなって考えている。不器用で面倒臭くて、華やかさに欠け、でも、絶対の信頼が置ける。そんな奴のほうが、僕は好きなんだよね、道具だけじゃなくて、交友関係もそんな感じがする。

注1 クランポンと言うと、ハードブーツとか重登山靴のコバに、ワンタッチで付けられるタイプのものをイメージする。僕にとって、ワンタッチでないテープ締めのは、アイゼンと呼ぶほうがしっくりくるのだが… 

注2 ここでは、Mベルのクランポンを例にとっているが、Mベルに問題があると言うわけではない。というよりも、ほとんどのワンタッチ(クィックフィット)型の6本爪クランポンに共通する問題であることに留意してください。

注3 8本爪以下は「簡易アイゼン」の扱いなので、そもそも半日とかガンガン使うってのはおかしいと言われたらそれはその通りです。

注4 どんな製品でも、加工・改造したら、すべての結果はあなたが負うことになります。軽はずみな改造は慎むこと。

乗鞍岳BCの動画をタクジがアップしてくれました。

ドローン使い

最高! 持つべきモノは、ドローン使いの友達。

このリンク送ってくれたので、僕はすぐに再生してみた。家に一人なのに、「あっ!これ俺!俺が滑ってる!」って、声に出ちゃうのはなんでなんだろうね?

乗鞍岳BC(Youtube)