「ストラクチャー」という言葉を知っていても、「自分ではできない」と思っている人も多いはず。高価なストーングラインド仕上げのマシンに、専用の器具を入れて、初めて加工ができると、チューニングショップの広告にも書いてある。
高齢者である僕は知っている、ストラクチャーのアイデアがどこから来たか。
高齢者である僕は知っている、ストラクチャーのアイデアがどこから来たか。
今から40年以上前の話だけれど、スキーのソールは、ラッカー塗装仕上げの物がまだまだ多かった。ソールがポリエチレン製なら、高級品の証だった。
スキーヤーは買ってきた板のソールに、ワックス(キャンドル・蝋燭)を溶かして、はけ塗りする。アイロン(コテ)塗りする人も居て、繰り返しそうやってると、ワックスが染み込んで良く水を弾き、滑走性がよくなる、と言われていた(注1)。
使い込まれたスキーのソールは、それが単に木にラッカー塗って、蝋燭を磨き込んだだけとは思えないくらいに、「ピカピカに光って」いた。
ソールがポリエチレンに移っていっても、「ピカピカ」「ツルツル」ほど「エライ」という…毛根がやや機能不全な、ハ◯の人が羨ましく思うようなのが常識だった。
使い込まれたスキーのソールは、それが単に木にラッカー塗って、蝋燭を磨き込んだだけとは思えないくらいに、「ピカピカに光って」いた。
ソールがポリエチレンに移っていっても、「ピカピカ」「ツルツル」ほど「エライ」という…
ホットワックスして、スクレイプし、最後は「コルク」のブロックで磨き込むのが当時のワクシングだった。そして、光にかざして見て、ピカピカ加減にうっとりする。
なんでこうなるの?
で、ある日、スキー雑誌に「ストラクチャー」という話題が掲載されたのだ。
曰く、
平滑すぎるソールでは、水分の逃げ場がない
2枚のガラスを合わせて、間に水を入れると剥がれなくなる、アレ
雪面とソールの間に水が入って張り付くのがストップスノー
雨の日に溝が減ったタイヤがスリップする、ハイドロプレーニングと同じ
つまり、水を逃す溝を掘れば良い。
ほんで、「溝」といっても、大きいのを何本も掘る必要はなく、細かいのを沢山掘ればいいということだった。一番滑走性が低下するのが、ツルピカソールだと。
で、滑走性が勝負のマジ◯チ真剣なスキーヤーたちは、こぞってソールに傷をつけ始めた。
この間まで
ツルピカサイコー!
ソールが光れば全てヨシ!
ソールを鏡がわりにして、毎朝ヒゲを剃ってます!
そう言っていた人たちが、
時代はストラクチャーだよね、ツルピカ?プッ…
思いっきり手のひらを返して、転向したのだ。
その時、僕は「大人って信用できないな」と思った。
数シーズン前から、いろいろなやり方を試してみた。YES. PYLには、結構大胆に入れてみたけれど、目で見てわかる程度の細かい傷でも、効果にはあまり差がないことが分かったので、今はあまり大きいのは入れていない。
が、目で見てわかる傷、ではあるので、見かけは正直あんまり良くないかも。
個人的な感覚だけど、滑走性はこんな感じ。
ノーマルソール
100 レーシングバーン、人工雪の圧雪
80 コーデュロイ、乾燥した粉雪、トップシーズンの圧雪
60 降雨後のシャバ雪、ザラメ
50 普通のシャバ雪、汚れたザラメ
20 黄砂・花粉で汚れたザラメ
5 ストップスノー
DIY加工ストラクチャーソール
90 レーシングバーン、人工雪の圧雪
75 コーデュロイ、乾燥した粉雪、トップシーズンの圧雪
60 降雨後のシャバ雪、ザラメ
55 普通のシャバ雪、汚れたザラメ
35 黄砂・花粉で汚れたザラメ
15 ストップスノー
トップシーズンなら、「ツルン」が「シュルン」に落ちる。その代わりに、最悪のコンディションで、「グググッ」が「ズズズッ」に「ビタッ」が「ジリジリ」に改善する。
BCで妖怪に捕まると、ものすごい体力を消耗させられる。僕はそう思っているので、手持ちの板で、BCに持っていく可能性のある奴には、全部春雪用ストラクチャーを入れている。
あくまでも僕の場合は、ということなんだけどね…
注1 ホットワックスを繰り返すほど、ソールにワックスが染み込んで滑走性が高まるって言われている。僕は、その話はここから来ているんじゃないかなって思う。ラッカー仕上げの木のソールは、確かにワックスを吸収しいていたと思う。でもさー、今のソールってポリエチレンだよ。ワックス…染み込まないよね。表面の細かい凹凸に染み込む、それはあるだろう。でもさー、何度も何度もホットワクシング繰り返したら、「奥まで浸透する」ってことは無いように思うんだけどなぁ。
注2 滑っていると、いきなり板が雪面に張り付いてしまって、前方に放り出されて転んでしまうような雪のこと。雪の中にいる妖怪が、板を掴んで離さないみたい、というところから来ている。