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2021年3月7日日曜日

スーパーモデルは二重人格

スノーボードの仲間から、伝説の名機、クラッシックスーパーモデル158を預かった。
バートンスノーボードのスーパーモデルは、もともとはクレイグ・ケリーという伝説的なライダーが開発したフリーライド・オールマウンテンボードだった。クレイグはコンペティションでも強かったけれど、だんだんとパウダーライドやバックカントリースノーボーディングにシフトして行った。そして、不幸なことに、クレイグはアラスカの山中で巨大な雪崩に巻き込まれて亡くなり、スーパーモデルは廃盤になった。

その後随分たってから、スーパーモデルというモデルは復活したのだが、バックカントリーやパウダーライドに向いているという「方向性」は一緒だが、それを実現するための手段、ボードのディメンションはまったく違っていた。

そんなわけで、スキモノは、クレイグのスーパーモデルを指す時は、「クラッシック(古典的なという意味よりはむしろ、永遠のとか、普遍的なという意味を含めて)スーパーモデル」と呼んだりするのだ。

クレイグは水が流れるようにスムーズなライディングをして、誰よりも速く安定したターンを刻むと言われていた。そんなライダーが設計した彼女の乗り味は素晴らしい。しなやかだけれども張りを感じさせるフレックス。パウダーで浮くようにやや柔らかめで大きめの反りを持つノーズ。操作性のいい適度なトーション。そして、何よりもスリムなアウトライン。スパッと、瞬間的に切り替わるエッジ。そして一度雪面にエッジが噛むと、スルスルスルと加速し続ける、張りのあるテール。まさにレーシングカーのようで速い。

本当に、素晴らしい乗り味だ、コンディションにさえ恵まれれば…

つまり、面ツルのパウダーならば、あっといまに加速して表面に浮かび、足首のひねりだけでターンを仕上げることができる。

つまり、かっちりと締まったピステンならば、切るもズラすも自由自在で、ターン弧の調整も容易だ。

つまり、朝一番のコーンスノーならば、ドラグギリギリまでエッジを効かせながら面で乗る楽しさを実現できる。

だがしかし…
荒れ気味の深雪やら、硬いバーンとエッジで削られた氷の粉がまだらに溜まった状態とか、コーンスノーがシャバリ始めた状態とかでは、絶望的に敏感。いきなり前に走る、横に飛ぶ、柔らかいノーズが暴れて次の瞬間にどちらに飛び出すのかわからないじゃじゃ馬に変身する。

普段はとても上品な…例えば、ちょっと洒落たバーでデートしたら、

優雅で手入れのいい指先でグラスステムを摘み、シャンディガフで唇を潤しながら、彼女は小さい声で歌を口ずさんでいる。BGMで流れているシャンソンを正確に追いながら、小鳥のさえずりのようにフランス語が紡ぎ出される。で、見つめている僕に気がついて、ちょっと照れ臭そうに言う。

ちゃんと歌えるわけじゃないの。好きなのよこの曲。聴き続けていたら、耳で覚えちゃったの。

そんな上品な彼女が、クラブで、ある種の音楽が流れた瞬間にいきなり踊り出す。彼女のイメージとはまったくそぐわない、ヒョウ柄のショーツがあらわになるくらいに激しく腰を振り踊り続ける。そんな二重人格性も、恋愛のうちなら、いい刺激になるかもしれない。隠された激しさがあらわれるのが、年に数回くらいなら、続けられるかもしれない。

だが、ある種の音楽が流れれば、いつでも、必ず、すぐに、周囲が引いてしまうような激しさを見せつけるようであれば、、、よっぽどの包容力と、強力な体幹が無ければ、彼女と付き合っていくことはムズカシイ

僕は以前、持っていた彼女を手放した。そして、僕の手元にある彼女は、仲間が手放した物だ。僕も僕の仲間も、彼女のことを心から愛していたし、手放したいまだって懐かしく思い出す。

なのに、なんで手放すのか?だって?

だって、僕も僕の仲間も、クレイグじゃないんだからさ、仕方ないよね?

正規品を表すホログラムステッカー

トップシートとソールのグラフィックは時代感

先端にはメタルインレー、トップモデルらしい趣味性