常設のページ

2023年11月17日金曜日

学生寮の話(古川先輩ィお電話です!・2/2)

エンドウ君が仁王立ちになって、気が◯れたのかと思うような呼び出しをする。

きたりょぉぉおおおおおーーーーーー!!!!!
ふぅるかわっ先輩ぃぃぃ!!! ハアハアハア
お電話でぇぇっすううぅうぅーーーーー!!!!! 

エンドウ君というか、学生寮の名誉のために言っておくとさぁ、仕方ないんですよね。

各寮鉄筋コンクリートの4階建で高さがある。横幅も、そうだなぁ、50mプールより長いので75m位?奥行きもね、建物の中心に廊下が走ってて、両側に居室が並んでいる刑務所みたい団地みたいな建物なんですよね。建物の北側にある中庭から、4階端の、中庭の反対側である南側居室まで声を届かせようとしたら…本気で腹から叫ばないと、ダメなのよ。

で、この呼び出しは、2回繰り返す。

え?なんで2回かって?

一回では聞き取れないことがあるでしょう?音楽聞いてるとか、話してるとかね。

1回目は、最悪、「北寮の呼び出しだ」ってことを伝えればいい。注意喚起ですね。
2回目で、「誰を呼んでるのか」ってことを「正確に」伝える、そんな感じ。

名前の最初の「フル」が聞き取れず、後半の「カワ」だけしか聞こえないと…
ヨシカワ・アラカワ・キッカワとか、わからないでしょう?

フルカワならまだいい…「〇〇トウ」とかだとさらに紛らわしい。
イトウ・ゴトウ・エンドウ・サイトウ・エトウ・カトウ…
誰を呼び出してるのかわからなくなる。

ガラガラって窓があいて、誰か叫ぶ。

だれぇぇ?だれを呼んでるのぉを??

面倒臭いよね?だから2回呼び出しをする。

古川くんが誰かの部屋にいてダベっているとしよう。

きたりょぉぉおおおーー!!

ここで北寮のみんなは、会話を止めて聞き耳を立てる。ラジオ(テレビは禁止されていた)付けてる場合はボリュームを下げる。

ふぅるかわっ先輩ぃぃ!! ハアハアハア
おぉう、俺だ俺だ!

古川くんは窓をガラガラって開けて、中庭に向けて叫ぶ。

お電話でぇっすううぅぅーー!! 
はぁあぁあーーーいいい!!

古川くんの絶叫系の返事が聞こえたら、エンドウ君は呼吸を整えて受話器を取り、先方様にお伝えする。

古川、おりましたので、呼び出しました。ハァハァハァ 
恐れ入りますが、もう少々お待ちくださいませ、オス

受話器を取って、カウンターの上に置きっぱなしにしただけで呼び出ししているわけだ。

別に通話口を塞いでるわけでもないから、先様には「何が起きているかは定かではないが、そこらじゅうで誰かが絶叫している」ところ…

電話を受けてくれた奴は、なぜか「ハアハア」いってる…なんで?

かなりヤバいところに電話してしまった、ということは…伝わってしまう。

この呼び出しの破壊力…わかっていただけただろうか?
帝国海軍の旗艦である戦艦長門の41サンチ主砲なみの破壊力なわけだ、一発でも。

あっ、すみません、すみません、ほんとすみません、 
なぜ…私…あやまってるのかわかりませんが、とにかくすみません…

電話をかけただけの相手に、心底申し訳ない気持ちにさせてしまう、恐るべし和敬塾。

でねぇ、これも繰り返し言ってるけど、北寮だけで100人いるんですよね…
今は、鍵置き場になっちゃってる、在寮生ボードがこれ。
この釘一本一本ぎっしり名札が下がってた…

全員がリア充なわけないし、交友関係少なくて電話ほとんどかかってこない奴もいた。でも…そうだなぁ、一人の寮生に1日3本くらい電話がかかってくるとして、300本の入電があるわけですよ。

ソレが、午後…5時位から、門限の夜10時まで、5時間弱に集中する。
1時間に60本、1分に1本かかってくる計算、単純にね。

不在の場合が4割あるとして、残り6割、1時間に30~40回ですよ。
2分に1回、この呼び出しが中庭に響き渡るというわけです、平常時で…

戦艦長門の41サンチ主砲の乱れ撃ち…

本当に重なる時って、黒電話が全て入電で埋まり、呼び出しする寮生が4人か5人、かわるがわる中庭に出て叫んでいる。

で、ふと気がつくのだ。

自己紹介で大声出すのに慣れるってのは、このためだったんだなぁ
部屋周りで顔と名前を一致させるってのも、このためだったんだなぁ

極々一部の例外を除いて、電話応対にはみんな協力的だった。

黒電話が鳴り続けると、一度玄関で電話取ったら、下手したらそこからもう動けなくなる。要件のメモを取って在寮生ボードにぶっさす。受話器を置いた瞬間、その電話機が鳴る。在寮確認を取って中庭に出て、2回呼び出しをする。

そんな状況になると、もうそこから離れられなくなるのだが…そこは流石の連帯感。通りがかった奴が、状況に気が付く。

おう、次の電話からオレ代わるわ

と声をかけてくれるのだ、神?
これは先輩、後輩、同期関係なかった。
あぁ、本当に、いい奴らだなぁ、僕はそんな風に思ってた、一体感。

極一部…電話でみんなドタバタしてるのに…
玄関を避けて裏の窓から出入りしたり、みんなの脇をサササササーーーーって素早く通りすぎたり、電話応対を逃げるような奴も居るにはいた。

そんな奴らへの着信メモは、なぜかブッ刺し方が甘くて風で飛びやすかったり、字が異常に乱れてて読めないという噂もあった…

まぁそれは噂だし、そもそも、もう古い話なので。その噂が本当かどうか、確かめる術もない。