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2021年7月11日日曜日

暗い夜道(完結編)

おごらされるという警戒警報が頭の中に響いて、すくなめに言った。

10マンもらった

すげー!やるなー!
かすり傷で10マンか! 
いっそ刺されれば3倍になってたな!

パイセンが冷静に分析する。
 
多分100マンくらい入ってて、その1割くれたんだろうな。

なるほど、そうかもな。

そうすると、実際のところは、札束は3束で300マンくらいあったのだろうか。そこから無造作につかみ出してくれたのが30万円ちょっと届かないくらいか…

写真と本文は関係ありません

俺はそんな計算で上の空になっていて、「奢れ」という呼びかけに「オウ」と答えていた。

翌日は3人とも休みなので、オヤジはキャバクラで奢らせる気満々だった。でも、パイセンがなぜか真面目に、「チェーン店の居酒屋スタートで、スナック2次会」で終わりにしてくれた。しかもパイセンがボトルを入れてくれて(一番安い甲類焼酎だけど)、覚悟してたほどの散財にはならなかった。

別れ際にパイセンは、「アブク銭だって金は金だ。もしものことを考えて貯金も大事だぞ。」と、ポランが聞いていたら怒りそうな、植木等っぽくないことを言っていた。

そんなこんなで、日付が変わって帰宅して、テレビを付けるとニュースをやっている。

テロップに、「飛び蹴り強盗」というキャッチーなフレーズが流れる。

ん??

夜道を歩いていた若者が、いきなり飛び蹴りで襲われて倒され、大金を奪われたらしい。場所は新宿で、昨夜、俺が強盗と立ち回りをやった辺りだ。

警察が、逃げた男の足取りを追っている。そうキャスターが言って、ニュースは終わった。

ふと、イヤな感じがして、掃き出し窓のカーテンを少し開けて外を見る。俺の部屋はボロいアパートの2階。エアコンの室外機を置くだけの狭いベランダがあり、そこに牢屋のような柵がはまっていて、隙間から下の通りが見える。

左手の少し先に、黒いセダンが停まっていた。通りの右手から、もう一台セダンが走ってくる。すぐそこの角を渡ったところで、ライトを消すとそのまま進んできて、目の前を通り過ぎて、先に止まっていたセダンの後ろに、静かに停止した。

えっ?なんだ?なにこれ?

そして、俺はふと思った。
実害が無かったとしても、「強盗に遭って警察を呼ばない」、そんなことはあり得るのか?

俺が強盗から金を取り返したヒーローなのか、俺が強盗なのか、証言してくれる人は誰もいない。物証になりえるナイフには、俺の指紋がベタベタと付いている。

誰かが俺の部屋のドアの前に立った、そんな気配がする ⬅︎ 今ココ






という夢を見た。