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2021年7月10日土曜日

暗い夜道 (その3)

翌朝、俺のポケットからは、一万円札が28枚と、ガーバーの折り畳みナイフが出てきた。

そうだ、その場にいた男が、お手柄の記念で持っていけとくれたのだ。強盗からナイフを奪った記念だとかなんとか言って、メーカー品だぞとか言いながら。

写真と本文は関係ありません

昨晩のことは夢かと思っていたのだけれど、本当の事だったのか。とりあえず五万円を財布に入れて、仕事に出た。

職場には、シフトが合えば休憩を一緒に取るメンツが二人いる。ひとりは「パイセン」、もう一人は「オヤジ」。

パイセンは、この会社では古株で、経験や仕事のノウハウも豊富だ。時々一緒に仕事をするけれど、オッ!と感心するような段取りを見せてくれたりして、割と尊敬している。

「パイセン」は、植木等をちょっとぽっちゃりしたような風貌で、テキトー感が滲み出ている。部長に言わせると、昔はリアル植木等だったらしい。パイセンの同期入社組で、もう一人、植木等が居た。パイセンは「チャラン」、もう一人の同期は「ポラン」、二人合わせて「チャランポラン」と呼ばれていたそうだから、まぁ相当だったんだろう。

ポランが、社長と何かの理由で衝突して、辞表を叩きつけて辞めてしまった。で、片割れだけだとチャランという呼び名がしっくりこない。

と言うか、「なんであの人はチャランなんですか?」という、新人の当然の疑問に、「いや、前はポランがおってんねん」という説明はちょっとアレだ。だって、「なんで今はポランさんはいないんですか?」って当然の追っかけ質問に…「あの、その、社長とちょっと…で辞めてね」とは、入ったばかりでウブな新人には言えんわな。

まぁ、そんなこんな(社長の「なんか違うアダ名にしーやー」)で、チャランは「パイセン」になった。

「オヤジ」は仲間ウチで一番若い20代。背が低く腕っ節も弱く、仕事も大して出来ないのだけれど、一番貫禄がある。キャバクラに行くと、間違いなく上司、多分部長、もしかしたら役員と、お嬢たちが値踏みするようなルックスをしている。だから「オヤジ」。

今日は3人が早番シフトで一緒だったので、休憩を一緒に取った。当然、昨夜の話になる。

「あぶねぇなぁ、下手したらマジで刺されてんぞ」
「格闘技とかやってたっけ?」
「いや……なんとなく、弱そうな奴に見えたんだよね」

で、金をもらって別れたと言う話になって、二人の目の色が変わった。

いくら?いくらもらった?

つづく