表妙義縦走について、詳しく書いてみよう。山頂稜線の上級者向け岩綾コースは、どんな感じなのか、参考になればなによりです。
BIKE & HIKE の紹介で書いたことの復習、こちらが概念図。
赤線が縦走路、右から入って左に抜ける |
完全に稜線通しに抜ける「表妙義縦走コース」、ガイドブックには「上級」とか、「危険」と書いてある。
正しい表現をすると、技術的には難しいところはないので、「上級」かどうかは意見が別れるだろう。ただし、「国内一般登山道最難関」とか、「一般登山者の立ち入りをゆるしているのが間違い」と言われるのは伊達では無い。
クライミング経験が無くても、基礎体力があって、三点確保や、腕力に頼らず足に乗るとか、すれ違いなどの状況判断だったり…が身に付いていれば技術としては十分。
問題は、それらを…「一発間違えたら即死」という環境で、ひたすら延々と、一日中繰り返す事ができるかどうかということ。
こんな地形の連続 |
上の写真は縦走路にある下降点。鎖の先はまったく見えない。しゃがみこんで、鎖を手に取り、身を乗り出して下降する。鞍部に着いたら登り返して、その先に白く続く土の踏み跡を辿って進む。
身を乗り出すとは、つまりはこういう事。
恐怖心をコントロールしながら足場を探す |
えっ?ムリムリ!って感じるなら、止めておいた方がいいです。
写真を撮る時とか、対向者とすれ違う時はセルフビレイ(自己確保)があったほうがいいですね。つまり、ハーネスとかカラビナとか、スリングを使った、安全確保のノウハウがあったほうが良い。
セルフビレイを取る |
足を滑らせたら一発でアウトな稜線 |
高所恐怖症なので、ここに行く度に後悔します。なんで来ちゃったんだろう、こえ〜よ。
鎖場の下が見えない箇所が頻繁に現れる |
焦って手順を間違えたり、足を滑らせたら本当にやばいので、急ぐことはできません。淡々と、一歩一歩を確実に進んでいきます。歩きながら写真を撮るのもダメ、絶対。
しゃがんだり、立ち上がったりするとき、ふと立ちくらみっぽくなること、ありませんか?ここではそんなちょっとしたことが、死亡事故の原因になりえます。
死角になる場所では必ずコールすること |
鎖場の通過では、アンカーとアンカーの間に複数の登山者が入らないように配慮します。一人がバランスを崩して、鎖を揺らしたら?アンカーとアンカーの間にある、同じセクションは掴んでいたら、振り落とされるかもしれません。
死角になっていて見えない場合は、「気配」を感じるようにしましょう。
「気配」と聞いた時に、ピンと来ない人、透視とかの超能力?って思った人は、このエリアには行かないほうがいいかもしれません。
さっきから時々ちらちらと見える、対向登山者はそのペースから考えてそろそろすれ違いになるはず、そんな風に、同じエリアにいる他の登山者の現在地を大まかに把握しておくことも大事でしょう。先が見えなくても、目の前の鎖を見ます。鎖が小刻みに揺れていれば、誰かがその先で鎖を使っています。もちろん耳を澄ませて、コールが無いかどうかも確認します。それが、「気配」を感じるということ。
そういう意味もろもろを含めて、状況判断(山の総合力)が試されるルートです。
腕に頼り切りでは危険、足場をしっかりと見て体重を乗せていく |
あ、そうそう、時々ですが、鎖の長さがたりない場合があるんですよね…
僕はこれを八海山の鎖場で経験しました。後ろ向きで下降していて、あと30cm で地面。そこで鎖が終わって手がすっぽ抜ける。
冷や汗と、声にならない絶叫。「あ、俺、今…死んだ」そう思いました。
そこは、畳半畳くらいの狭くて、よく踏まれた土の鞍部になっていました。
僕はタタラを踏んで、後ろ向きに尻餅を着いただけで、滑落はしませんでした。ラッキー!w
それ以来、鎖の残り部分の長さと、次の安定した足場までの距離は一歩ごとに確認しながら下降するようにしています。
超えても超えても岩綾が連続する |
エスケープルートはいくつかあります。ムリだと思ったら、撤退が吉。
長い梯子 |
ここの怖いところは、「誰が見ても危険な場所」での滑落事故はさほど無いらしい。
有名な難所で、「鷹返し」(または「鷹戻し」)と呼ばれるところがあります。ほぼ垂直の鎖場が3段、小さいテラスでつながっています。動けなくなった人が詰まっていたり、すれ違いがテラス上で発生するなど、緊張感の連続。ところが、ここの核心部では、転滑落事故はそんなに無いらしい。(核心部で落ちる人は、行き詰まって握力がなくなって落ちる、中高年の女性など)。
急な岩場を通過した後が危険 |
それよりも、この難所を登りきって、岩棚に出る。あー良かったと、一歩・二歩踏み出したところで…岩棚の一部が崩落していて狭くなっていて、そこにハラリと乗った枯葉を踏み抜いて墜ちる。そうした事故が多いらしい。
歩いているとき、体を動かしているときはリラックスできないということでもあります。
小さなテラスで、すれ違い待ち待機 |
一般登山道は、緊張する岩場と、安心して歩ける場所があります。その配分は、1:9 くらいでしょうか。難コースと言われるところでも、2:8 くらい?
ここは、山頂稜線に出てからは、ずっと緊張を解くことが許されません。休むときはセルフビレイを取って、立ち止まってが鉄則。
鎖が複数かかっている場所 |
腕力2 脚力8 のバランスで登下降 |
鎖を降っていくと、地面に着く手前がオーバーハングになっていて、足が壁から離れてしまうところがあったりもします。この場合は、腕力だけで残りの2mくらいを下降しなければならない、とか。
いざというときに、余力を残せるような歩き方、行動を続けていくことも重要ですね。
ここに来る人は基本ヘルメット着用 |
大岩壁を振り返る |
言い忘れるところだった、岩場の途中で雷さまが来ちゃったりするとマジ最悪。周囲の雲の流れにはいつでも気を配ってください。ふと冷たい風が吹いてきて、変な色の雲が湧いてきている…それくらいの兆候でも、逃げた方がいいと、僕は思うなぁ。
そんな意味で、雷&夕立&猛暑で脱水リスクのある夏はお勧めしない。日が長くて天候が安定している梅雨入り前か、紅葉が始まったくらいがいいんじゃないかな。
真夏は暑すぎるので紅葉か新緑の時期がオススメ |
そんな苦労を繰り返して、石門エリアに到着。ここは中之嶽神社駐車場から、アスレチック的なハイキングコースが通っています。地元の小中学校の遠足コースにもなっているくらいのレベル感。岩場って楽しいと思うことでしょう。
石門エリアまで来ればそこは遊歩道 |
カニのタテバイ |
石門の厚みはこれくらいしかない |
石門の中に大砲岩が見える |
実際のところ、石門エリアをのんびりと周遊するだけでも十分に楽しいと思います。体を動かしたかったら、お中道もいいでしょう。
お中道の岩場潜り |
繰り返しになりますが、お中道も簡単なコースではありません。距離も長いので、挑戦するなら十分に準備をしてからね。
で、ここから2時間近く車道を歩くのか…駐車場にデポしてある自転車で、シャーーっと15分で下るのか…
大きな違いですよ…やっぱ BIKE & HIKE でしょ?
では、みなさんご安全に。