春のザラメ雪をのんびりとハイクアップするコンディションなら、6本爪のアイゼンを選ぶこともある。これは、トラクションはスノーシューと同じくらいで、ハードな状況にはまったく向かないけど、トレースがきちんとあるような場合にはなかなか快適。
そして、6本爪になると、ハーネスは従来型のテープ締めに加えて、ワンタッチ型の物も選択肢に入って来る。で、そもそも6本爪はハードなところで使わないという前提だから、どうでも良いと言えばいいのだが、ワンタッチ型には隠れた危険性があるよという話(注2)。
これが、クィックフィット式ハーネスを備えた6本爪のクランポン。僕はこれを5〜6シーズンくらい前に買ったのだが、あまり痛んではいない。というのも雪が柔らかければスノーシューだし、固くしまった急斜面が行程上に1箇所でもあれば、前爪付きのクランポンにする。つまり、6本を出すのは雪が安定した残雪期で、登山道の一部にだけ雪がある、そんなときにしか使わないからだ。
岩や土の上でも履いたまま歩くので、スノープレートは傷んでいる |
このタイプのクランポンはボルト2本を緩めることで幅を調整できる。登山靴とスノーボードブーツで共用したいというユーザーにはありがたい機能なのだが、登山靴とブーツはボリュームが違う。登山靴に合わせて着るとブーツがはまらなくなるし、ブーツに合わせると登山靴では結局あまってしまう。
ストラップはまだしも、バックルの位置が低くてブーツよりもはみ出すと、岩にこすったりぶつけたりして、破損のリスクも当然高くなってしまう。
で、僕は、そもそもバックルが甲の上にあればいいんじゃないかな?そんな風に考えて加工してみた(注4)。
ナイロンでできたストラップを切って、クランポン本体の取り付けポイントを通して2つ折りにする。ストラップを切った後は半田ごてで溶かして始末し、リベットが通る4mmの穴もコテで開ける。これで、バックルはもともとの取り付け位置から3cmくらい上に移動した。これで多分、今までよりは使いやすくなると思う。
バックルは岩に擦れて白く変色している |
僕の使っているMベルのクランポンは、よく考えられている。バックルを締め付ける黒いレバーは一本だが、バックルを緩める赤色のレバーは左右2分割式。これを「両方同時に」引かないと、緩むことはない。
左右が独立して動くので、片方のレバーが異物で持ち上がっても解放しない |
だが、それはあくまでも1〜2時間なら緩みにくいということ。ガシガシ半日くらい、踏み抜きやらキックステップやらザラメラッセルやらを繰り返しているといつの間にか緩んでくる(注3)。さっき言った通り、余ったストラップが雪を集めて来て、バックルを押し上げ、その下に雪を押し込んで来るからなのだ。
この位置なら、雪がバックルの下に押し入ることも減る
以前使っていたバックパックのチェストストラップ |
この投稿で僕が言いたいことは、クイックフィットがダメということではない。そもそも、簡易的に使用する物としては、とてもよくできているし、数時間の使用ならトラブルこともまず無いだろう。もちろん、厳しいコンディションに差し掛かったら、念のためにバックルが締まっているか確認するべきだし、帰宅したらプラスチックパーツの消耗具合ももちろんチェックすること。
僕は、このクランポンがダメになったら、次はテープ締めを選ぼうかなって考えている。不器用で面倒臭くて、華やかさに欠け、でも、絶対の信頼が置ける。そんな奴のほうが、僕は好きなんだよね、道具だけじゃなくて、交友関係もそんな感じがする。
注1 クランポンと言うと、ハードブーツとか重登山靴のコバに、ワンタッチで付けられるタイプのものをイメージする。僕にとって、ワンタッチでないテープ締めのは、アイゼンと呼ぶほうがしっくりくるのだが…
注2 ここでは、Mベルのクランポンを例にとっているが、Mベルに問題があると言うわけではない。というよりも、ほとんどのワンタッチ(クィックフィット)型の6本爪クランポンに共通する問題であることに留意してください。
注3 8本爪以下は「簡易アイゼン」の扱いなので、そもそも半日とかガンガン使うってのはおかしいと言われたらそれはその通りです。
注4 どんな製品でも、加工・改造したら、すべての結果はあなたが負うことになります。軽はずみな改造は慎むこと。