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2021年3月17日水曜日

革ブーツとともに去ったスキーヤー達(テレマークスキー)

30年少々スキーをやっていて、ブーツが革からプラスチックに変わったのは2回あります。1回目は、小学生のころ。2回目は、テレマークブーツが、革からプラスチックに変わった時です。近代テレマークスキーは、革靴と細板で始まり(注1)、プラブーツになり、技術と滑走スタイルも大きく変化しました。そして、次のことがまたも起こったのです。

革靴で積み上げた技術や経験が無になったように感じ
始めてすぐにあっという間に上達していくニューカマーを見て
テレマークスキーから離れる人が上級者の中に多くみられた

テレマークをやめたある人は、「メジャーになったテレマークに魅力を感じなくなった」と言い。ある人は、「パイオニア的な雰囲気がなくなったから」と言い。そして、「ソリッドで重くダイレクトになった道具になじめない」と言い、去っていきました。でも、僕は、多分、プラブーツではそれまでの滑りができなくなって、つまらなかったのではと思うのです。

革のブーツは高さがくるぶしの上までしかありません。O脚でも、スネの形に影響されることがなく、足首の先でエッジの角度を微調整できます。そして、テレマークブーツは母指球のところで曲がりますから、ブーツが変形して乗り手にあった形に変わってくれます。そうやって馴染んで、インエッジを踏みやすくなった革ブーツから、融通の効かない、ダイレクトなプラブーツに履き替えたら…うまく滑れなくても当たり前です。

そんな時期に、僕はある山の会で末席を汚していました。その会には、テレマーク黎明期から活躍していたテレマーカーが何人もいらっしゃいました。そして、皆さん嬉々としてプラブーツを試し…細板との相性が悪いと考えてファット(と言っても今の感覚ではライトツーリング的な)カービング板を買い…また革ブーツを物置から出し…ということを繰り返しながら、多くの人がテレマークをやめてしまったのです。

3cm のブレーカブルクラストを慎重に
photo by Fumihiro-san

この投稿で使っている写真は、そのうちの一人、フミヒロさんが撮影してくれました。彼はとっても個性的で、人懐っこく、適当な人ですが、あるポスターのライダーになったくらいの映えるテレマークスキーヤーでした。

ちょっとスプレーあげてよ、スピード感がでないから
いや、ムリ、ムリですよw

僕が草津のBCで遊んでいた時、フミヒロさんが2回ほど遊びに来ました。僕が雪洞とか、テントとか、ビビィサックで寝ている近くには、立派なヒュッテがあります(そこで泊れよ、俺w)。で、スキー場からツアーコースに入る人がいると、パトロールからヒュッテに無線で連絡が入ります。すると、ヒュッテのお母さんが大きな声で知らせてくれます。

「ブチョーーーー! フミヒロさんが、今入山したってーーー!」

僕はテントか、棺桶みたいな雪洞から「ありがとうございまーーーす!」と叫びます。
荷物減らしたかったんでテント無し
夜露と風避けだけの棺桶雪洞 荒れそうならちゃんとしたの掘るけどね

やがて斜面の向こうから、一人のテレマークスキーヤーが現れます。バックパックが尋常で無い位にデカいので、フミヒロさんであることは間違いありません。彼は僕のテントサイトというか、単に雪を踏み固めたところに滑り込んできて…

悪条件なので、ダブルストックで確実にエッジを切り替える

息も切らさず、いつも通りニコニコしながら、

ママ〜!酒持ってきたよ沢山!今夜は飲もう!(注2) 

と言って、バックパックから、マル(日本酒)の2Lパックやら、ビールやら、焼酎やらを取り出し、デカい一眼のデジカメと交換レンズを取り出し、秒でテントを立てると…

さ、日が暮れる前に何本か滑るか?
えっと、もう、その、日は暮れかけてますよね???wwwww

フミヒロさんに追い立てられ、表面がガリガリに凍って、強く踏むと壊れるクラスト斜面をハイクアップします。で、彼は先にヒラヒラと滑り降り、カメラを構えて待ってくれています。この投稿の写真がちょっと妙に暗いのは、そんなワケなのです。

確かこの時、フミヒロさんは定年後だったので6x歳くらい?なのに技術も体力も30代の僕たちを軽く上回っていました。というより、僕は3泊くらいの予定で70Lパック。入山時は汗ダラダラ。彼は一泊なのに、差し入れや写真機材で満タンの80Lパックで息切れさえしていない。

フミヒロさんがテレマークをやめた理由は聞けていないけど、プラブーツに違和感を感じるとは言っていました。

僕はアルペンスキーで、カント調整をやり続けるのに疲れて、細板&革靴のテレマークスキーにスイッチしました。高さのない革靴なら、足首周りが馴染んでくれば、ここまで微妙な調整をしないでいいのかも?と思ったのです。ブーツが馴染むまで2シーズン程度はかかりましたが、思っていた通り、細板と革靴はいい意味でルーズで、軽快で、なかなか快適でした。

で、やがて革のブーツが生産中止になり、プラブーツにスイッチして…アルペンスキーでやったようなカント調整が再開し、それに疲れてスノーボードにスイッチして今があるのです。

今、ふと思います。プラブーツとファットスキーが主流になったテレマークは本当に正常進化なのだろうか?あれほどテレマークスキーを愛していた、僕もフミヒロさんも、テレマークをヤメてしまったんだから、ネ。

スプレーではなく…
クラスト踏み抜いて飛び散る氷の粒々、コワイw
「いやーマルの2Lはやばいっしょ」と苦笑いする Yohichi

(注1) ブーツのエッジングパワーとスキーの板幅には相性がある。板は細いほどエッジが立てやすく、切り返しが容易なので、革ブーツとの相性がいい。だが、細板は深雪で浮力に欠け、軽いせいで悪条件に弱い。プラブーツになってエッジングパワーが強化されたことで、それまで履けなかった太くて重い板と、頑丈なバインディングが使いこなせるようになった。

(注2) 奥さんをキャンプに連れて行くと、食事からなにから全部僕が担当する。で、ある時、奥さんと奥さんの友達を連れて一緒にキャンプした。僕が「夕飯ができるのは5時ごろだから、それまでに帰ってくるんだよ」と言ったら、「ママみた〜い!」で、その日から僕の呼び名はママになった。山の会でそんなことを話したら、会での僕の呼び名はママになった。