常設のページ

2021年2月26日金曜日

プラブーツがもたらしたこと、葬ったこと(1)

*このシリーズはスキーの話です*

僕のスノースポーツ初体験は小5の時、昭和50年代の頭だった。買ってもらったスキーセットは、プラスチックのスキーブーツ、ねじ止めエッジのスキー板(注1)、バインディングは一応ステップイン式だが、流れ留めは紐式で、毎回かがみ込んで足首に紐を回してクリップで留める奴だった。ストックは一応アルミシャフトで、雪に刺すと雪の結晶の形に跡がつく、おしゃれなリングがついていた(注2)。

折込チラシにはしょっちゅうスキー用品の広告が出ていたが、グラスファイバーを使ったスキーは最先端で、「オールプラスチックスキー」とか、「ワンピースエッジ」とかの売り文句が使われていた、というくらいの時代感。

で、僕のスキーブーツもオールプラスチックだったわけだが、スキー場に行くと、まだまだ革製のスキーブーツを愛用している人も多かった。「革」と言っても、見るからに本革ってのもあれば、表面が厚くコーティングしてあって、テカテカしているのもあり、一部には合成皮革のものもあったようだ。で、そうした革製のブーツは一眼でわかった。なぜなら、ブーツの最上部(カフ)がくるぶしの上までしかなく、スネの下1/3から1/2まで来る、カフが高くてボリュームがあるプラブーツとはシルエットが全然違ったからだ。(注3)

革製ブーツでは LANGE(ラング)や、 Kastinger 、Caber 、Dolomite (ドロミテ)なんかがあったように記憶している。特に、カスティンガーだったと思うけれど、バックルが5本締めの奴が、カッコ良かった。足の甲を止めるバックルは普通は2本、で、足首が、2本の4本。カスティンガーは甲のバックルが3本の計5本。ワイヤーと銀色のメタルでできたバックルが、整然と並んでいて、只者ではない。で、そうしたブーツの履き手は、なんというか、華麗で無駄のない滑りをする上級者ばかり。コブコブの斜面を、両足を綺麗に揃えて、ひらりひらりと舞い降りる姿が美しかった。

僕はとにかく滑ることが大好きで、お昼も食べずに、本当に、ずっと滑っていた。で、当時はまだガタンゴトン言うシングルリフトしかなかったんだけれど、リフトの乗り場や降り場で、革製ブーツのおじさんに声をかけてもらった。多分、見ていて微笑ましい感じだったんだろうね。

「この坊主、疲れないんだろうか、本当にスキーが大好きなんだな」

つづく


スキーヤーというのは、うまいビールを飲むために滑る人たち

スキーヤーというのは 略

(注1)当時のスキーは、一枚の板でできていた(高級品・大人用は合板)。なので、今のようにエッジをスキー本体に収めてた形で一体化して固定することが不可能だった。そこで、幅が5mmくらいのエッジを、細い木ネジでソールに固定していた。ちなみに、ソールはラッカー塗料仕上げ。古くなると塗装が剥げて下の木目がでてきた。
(注2)当時はまだ、革のバンドにアルミのリングが留まっているストックも見かけたし、シャフトが竹だったり、木だったりすることもあった。ほんとだって!
(注3)革製スキーブーツのアウターは一体型で、ロワーと、アッパーカフが別れていなかった。そして、ブーツの全高はくるぶしのちょっと上までしかなく、脹脛を抑えるハイバックはまだ存在しなかった。なので、うまく滑るには左右方向だけでなく、前後のバランスがとても重要で、どんな時でも腰の真下に日本の板を維持する技術が求められていた。