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2021年9月2日木曜日

闇を歩く (緊急事態編)

そもそも論として、なぜ夜間行動はやるべきではないのか?

早朝に歩くのと、日没後に歩くのは違うと書いた。日没後に闇夜を歩くのは、往々にして時間切れによるものだ。言ってみれば延長戦で、残業で、仕方なしにやるということ。

日没時にまだ行動しているというのは、すでにトラブルを起こしているということだ(注1)。

月光とダケカンバ

僕はどちらかというと心配性で、かなり余裕をもった計画を立てる。だから、下山が遅れて夜を迎えるというのは、今までに2回しかない。2回しかないけれど、下山が遅れた時に、停滞するか、そのまま夜間行動をするかについては考えてある。
甲斐駒ケ岳山頂山体入り口の鳥居
僕の考えを書いておこう。

留まることにリスクがあるなら、動かざるを得ない。停滞することで命が削られるならば、すこしでも安全なところに移動する必要がある。例えば、

暴風と低温で低体温症の恐れがある
メンバーに高山病の症状が出ている
雪崩や落石、鉄砲水の恐れがあるルート上にいる

このような場合は、いつ、致命的な事故にあうのかがわからないので、速やかに行動をする必要がある。その日の最終目的地まで行動するというわけではなく、まずは標高を下げ、風雨を避けて、安全に停滞できそうな場所へ移動する。そしてそこで、それ以降どうするかの判断をする。

夜間行動になんのリスクも無いならば、進んでもいいだろう。ヘッドランプもいらないくらいに月光が明るく、舗装された林道を下るだけで良いならば、停滞する理由もない。

雲海に浮かぶ八ヶ岳

そのほかに検討すべきことをあげておこう。

1 地形 道迷いしやすい地形なら動いてはいけない
2 体力 食事・給水・睡眠は十分か?靴ズレなどはないか?
3 装備 十分に明るいヘッドランプと予備電池はあるか?
4 パーティ メンバーの足並みは揃っているか?

これらの項目すべてにおいて不安が無いことが最低条件だ。

ただし、「なんとしてでも、当日中に下山しなければならない」と思っているならば…夜間下山を諦めたほうがいい。

なんとしてでも
〜しなければならない

そう思っている時点で、心の余裕を失っているからだ。
逆説的になるけれども、「仕事」や「交通機関」などの事情や、悪天が続いて予備日を使い切ってしまった、そんな切羽詰まった状態であるならば、むしろ下山するべきではない。

下の写真は、間ノ岳へ向かう登山道。夜間行動では、これくらいしか視界が確保できない。こんな状況で、焦って動けば本当に危ない。
間ノ岳への稜線

先程の4項目で不安を感じたら、停滞を決めよう。ブーツの紐を緩めて足を休ませる。そして食事を取ろう。必要なら防寒着を着て、可能であれば仮眠を少しでも取ろう(注2)。

薄暗くなり始めたところで行動をやめて、仮眠に入ったとする。そうすると、夜の7時とか8時くらい、ほとんどの人にとっては普段よりも早く就寝することになる。すると、翌朝は普段よりも早く、もしかすると4時頃には目が覚めてしまうのではないか。

朝食をとりながら、周囲の様子を観察しよう。体力が回復し、月が明るく、地形が明確にわかり、何よりもメンバー全員が自信を持って進めるならば下山を開始すれば良い。

前回書いた通り、同じ夜間行動するなら夜明け前にしたほうがいい。4時に下山を始めれば5時ごろには薄明るくなる。当初の計画が間違えていなければ、7時くらいには前日の目的地についていることだろう。
この景色が朝か夕刻かで、こころのゆとりが変わってくる

繰り返しになるけれども、同じ景色でも心の持ちようで、見え方は違ってくる。同じような暗闇でも、こころを落ち着けて注意深く見通すのと、焦って曇った目で見るのでは大きく変わってくる。

時間に追われて残業をした時に限って、データを消してしまったり、関数の設定を間違えたり、よりによってこれを間違えるか?というタイポを見過ごしたり…そんなポカミスの経験はないだろうか?

オフィスでのポカミスも、洒落にならないかもしれない。だが、山でのポカミスは…命に関わることを忘れてはいけない。

次回の山行も、どうかご安全にお過ごしください。

おしまい

注1 トレラン界隈では、100km 走るとか、100mile 走るとか、連続して24時間以上行動するとかが流行っているらしいです。言うまでもありませんが、このブログはそうした人たちではなく、あくまでも一般的な登山者を対象にしています。

注2 こうした仮眠にそなえて、ツェルトかシェルターを持つのは大事です。