BCにはゲレンデとは違う特有のリスクがある。危険度の高いのが雪崩と落石(注1)。一般的に注目されやすいのは雪崩のリスクで、いろんなところで注意喚起をされていて、情報も手に入れやすいですね。
この投稿では、あまり紹介されない、落石の危険性について書いてみます。
BCで落石がないのは、自分たちより上に斜面がない稜線だけです。下の写真は、谷川岳芝倉沢。一ノ倉岳へ登り返した先にある、こんな心躍るドロップインポイントなら、落石はありません。思う存分これから滑る斜面を見下ろしてください。
芝倉沢下降点、正面は谷川連峰最高峰の茂倉岳 |
下降を始める前に、メンバーとは打ち合わせておきましょう。途中で停止する場合は、どこにするかです。下の写真は八方のBCで「砂時計」と言われている場所です。落ち口からボトムまで、危険エリアなので基本はノンストップ。ただ、もし、停止するとしたらどこが適当かわかりますか?その判断ができない人を先頭に行かせてはなりません。
白馬八方砂時計 |
BCの落石が厄介なのは、雪の上を転がってくる時にはほぼ無音、音もなしに降ってくる。
「ボスッ」と、鈍い音がして、振り向いてみたら、さっきまでなかったホヤホヤの落石が雪に突き刺さってた。そんなの見ちゃうと、オシ●コ漏れそうになっちゃいますよね、冷えてるし。落石の直撃弾を避けるためには、上を良く見て、「尾根状の岩場」の下を選んで停止します。まずは雪の上に真新しい落石(注2)が転がっていないかを良く見ること。
ここの真ん中は岩場の尾根状(凸状)ここで落石が出ると、音がするのでわかりやすい。そして、出た落石は、尾根の左右に弾かれて行くはずなので、尾根の真下は比較的安全。ほんでもって、この尾根筋は北東に伸びてて、ここは北向きなんです。日射を受けると凍結が緩むので、南向き斜面からはドッカンドッカンいろんなモノが落ちていきます。だから、止まるのはできるだけ北側を選びましょうね。
停止する時は必ず上を向いて |
ま、そこがどんなにローリスクに思えても、落石は跳ねて方向を変えたり、ブチ砕けて散弾銃みたいに、かけらを飛散させたりして、思ってもみないところから攻撃してきます。だから長居は無用です。
次に地雷についてです。
下の写真は芝倉沢のデブリです。デブリは、土砂崩れみたいに、いろんなモノ(木の枝や幹、土砂や岩石)が一緒に押し流された跡…そう、いろんなモノを…
ある時、谷川岳マチが沢で夏スキーしてたら、デブリの下からボロボロになったウインドブレーカーが出ていて…
おっかなびっくり確認したら、中身は入っていませんでした、あー良かった。
地雷の供給源、ブロック雪崩の跡(デブリ) |
そうやって流れ出た岩石は、最初は雪の表面にあります。
大きめアイスブロック |
しかし、岩石は黒っぽい色をしているので、日射を受けると熱を吸収します。そんで、周囲の雪を溶かして、雪の下にだんだんと沈み込んでいきます。そこの上に、ちょっと新雪が降っちゃうと、地雷原の完成。
最悪なのは春の嵐が来た後の富士山。
富士山の表面はスコリア(軽石みたいな多孔質の石)で覆われています。こいつらは普通の石と比べて軽いんで、強風が吹くと飛ばされるんです。あるシーズン、猛烈な春の嵐が来たんですよ。で、その後チョロっと降雪があって、斜面が真っ白になったと。んで、イソイソと富士山BC行ったら…見た目はまっさらな新雪なのに、雪の下3〜5cm に、ほんと満遍なくって言いたいくらいスコリア地雷原www
こうなっちゃうと、もう、人間の努力ではどうしようもないので、雪はたっぷりあるのにシーズン終了ってなっちゃいました。
脱線した話を戻すと、小さな地雷はどうしようもありません。ただ、マンゴーくらいの大きさの地雷になってくると、ヒットすると洒落になりません。なので、沢筋のコースを降るときは、デブリの通り道である流心を極力避ける。そして、雪面の上の微妙な盛り上がりを見逃さないようにする。不安があれば、徹底的に減速して、ヒットした時のショックを減らすようにしてください。
滑るコースが東向きならスキーヤーズレフト、西向きならスキーヤーズライトが地雷原になっている可能性が高いです。理由はさっき書いたけど、雪崩が出やすいのは南向き斜面だから、ですね。
では、皆さんご安全に。おしまい
注1 ここでの危険度とは、「発生する確率」×「遭遇したときの被害」であると考えてください。発生する確率が高く(頻繁に起こり)、尚且つ遭遇した場合の被害が深刻なのが最大の危険度ということ。どちらかがゼロなら、掛け算なので、危険度ゼロ。
注2 真新しい落石の場合は、すぐ脇の雪面に、落ちてきた時にできた窪みがあったりする。落石そのものをよく見ると、割れたところの断面は色が違うことがわかる。そこだけ苔や草がついていなかったり、酸化していなかったりするからね。